すべてはあの花のために❽


「わたしのことを、見つけてくれてありがとう」


 見つけたんだ。ただ一人。オレが、あの花畑で。


「わたしと、出会ってくれてありがとう」


 ……こちらこそ。オレに会ってくれて。オレを、変えてくれて……。


「わたしと、お話ししてくれてありがとう」


 たとえハルナとしてでも。……話せて。よかった。


「わたしのことを、見ていてくれてありがとう」


 いつでも見てるよ。ハナのことしか。オレは見えないんだ。


「わたしのことを、愛してくれてありがとう」


 ……そんなの。あたりまえじゃん。ばか。


「本当に、ほんっとうに。ありがとう」


 オレも。……いっぱい。ありがとう。たくさんたくさん。感謝でいっぱいだ。
 オレの世界を変えてくれて。ありがとう。ハナを好きでいられることが。……オレにとっての。幸せだっ。


「わたしをここまで動かしてくれたこと。本当に感謝しています。だからちゃんとお礼がしたかったんですけど……こんなもので、申し訳ありません」


 ……そんなの。気持ちを少し変えられたことで。聞けたことで。十分だっ。


「今日、あなたに出会えて本当によかった」


 やっぱり、ハナを目の前にすると壊れる。
 自分が決めていたものが。自分の。……決めつけた幸せが。


「……こんなわたしの醜い感情を。聞いてくれて、本当にありがとうございました」


 そんなの。醜い内に入るわけないじゃん。オレの方がよっぽど醜い。檻に閉じこめられるような罪深いオレが。綺麗なお姫様なんかに手を、伸ばそうとしてるんだから――……。


「それではさようなら。名探偵燕尾服仮面さん」


 ――――イヤだ。
 そう思ったら、勝手に手が動いた。


「どうされ――っ、んんっ」


 無理。……無理だよ。ハナの目の前じゃ。そんなオレの決意も崩れる。
 ダメだ。わかってる。こんなオレじゃ、ハナを幸せにできないことくらい。十分わかってる。

 ……っ、でも。


「……ごめん。もう、すこしだけ……」


 わかってるんだ。ハナが、この姿の奴には話してくれたんだって。
 わかってる。自分が決めたことなんだ。……でも。つらいんだっ。

 今。唇を離したら。……オレだって。ヒナタだって。言ってしまいそうになる。

 心を許してくれたのは、オレなんだと。この姿は。……違うんだと。こんな、汚くて醜いオレをわかって欲しいと。


「……私は、絶対に諦めませんよ」


 でも、オレのやることは変わらない。


「私は、絶対あなたを変えてみせます」


 ハナの運命は絶対に変える。それから、考えもだ。
 今回は少しだけ、ハナの気持ちを変えることができた。だからこの姿のオレに、話をしてくれたんだ。幸せに、なりたいって。


「私はあなたの気持ちだけではなく、運命も道も、そして考えも。絶対に変えてみせます」


 運命も変える。ハナが幸せだって決めつけてる道だって。そして。その考えだってなんだって。


「……そうすれば、あなたも幸せになれるでしょう?」


 ハナが幸せになれることが。……オレの、決めた幸せだ。


「私がそんな悲しいものからあなたを、必ず断ち切ってみせましょう」


 こんな悲しいものなんかに。ハナを連れて行かせやしない。
 ……そっと。自分からなんて絶対に送れないものを、帽子から取り出す。

 綺麗だった。この花はやっぱり、ハナにピッタリだ。