……でも。
「結局、あなたの本当の気持ちは聞けても、考えは変えられなかった」
気持ちは聞くことができた。どんなことを思っているのか。それでも、ハナがどんな考えを持ってるのかはわからないままだし、それを変えることは……できなかった。
「何を仰っているんですか。わたしは、気持ちは変わったと。そう言ったでしょう?」
気持ち……。でも、考えを変えないとハナは……。
「だから、今まで気づけなかった……ううん。多分気づいてたけど、誰にも言ってこなかった本音を言えることができた」
誰にも? まあシントさんは別だろうけど。
……でも、そっか。あの時のハナは、気持ちしか吐いてくれなかった。苦しいんだって、つらいんだって。でも今ちゃんと、幸せになりたいって言ってくれたんだ。
幸せになれないから苦しいんだ。幸せになれないから。つらいんだって。なんで苦しかったのか。なんでつらかったのか。 それを今。他の誰でもない、偽物のオレに。……話してくれたんだ。
「……本当は。誰にも言うつもりはなかったのに。……わたしには。もう時間がないんです。だから。わたしには決められた道をいくしか。幸せになる方法はないんです」
「(……っ。ハナ……!)」
そう思ってハナの方を向いたら、ハナもこっちを向いていて息が止まる。近い距離に。……また体が動きそうになる。
「(話そうと。してくれてる……)」
頑張って聞き出そうとするけど、「……話せないんです。ごめんなさい」と。本当に申し訳なさそうに言われてしまった。
「これだけのことをしていただいたのに。あなたの気持ちに応えてあげられないのは。本当に申し訳ないです。でも。心から嬉しいと。そう思えたのはあなたが初めてでした」
オレの気持ちなんて、言うつもりはなかったよ。何でかこの姿だと、ついぽろっと口に出ちゃうんだ。……でも。言えてよかった。たとえオレじゃなくても。
好きって気持ちを、無視してるのかと思ってた。こんな運命のせいで、そうしてるんだって。でも、この好き自体を向けられることは、嬉しいことなんだ。ハナにとって。
そういう気持ちを持ってくれただけで。少しでも、オレに許してくれたことが。……嬉しかった。
「なんで。ですかね。本当に不思議。今まで、こんな感情……あんなことがあってからは、もう一生来ないと。そう、思っていたのに……」
「……あんな、こと……?」
それって、花咲の人たちのこと? それとも。……ルニのこと?
もしかして、思い出してる……? 唯一助けを求めてくれた、オレのこと。
「わたしのために。泣いてくれて。ありがとう」
こんな涙。汚れきってるのに、ハナの手がやさしく頬を伝う涙を拭ってくれる。
「いかないで」
どこにも。ただ、オレのそばにいてよ。はな……っ。
「消えないでよ」
消させなんてしないよ。だから。……もう。オレの目の前からいなくなんないで。
「今、生徒会とは別の仕事をある人から任されています。これはみんなにとってもわたしにとっても、とってもいいことです」
いいこと…………願いのことかな。
でも。叶えるだけハナは無理をする。それだけ、ハナでいられる時間が短くなる。
「みんなのことを、すっごい幸せにできたらなって」
それって。無理をしてでも願いを叶えてやるって。そういうこと……?
やっぱり変わってないじゃん。ハナが犠牲になったって。オレらは幸せにはなれないんだって。
……でも、どうやらそういうことじゃないらしくて。
「だから、恋? してみるのもいいかなって」
オレのせいで腰が砕けて立てなくなったハナが、そんなこと言い出した。
「わたしには時間がないから、そんな資格もないと思ってたんですけど……そんなことをしてみてもいいかなって。一人で楽しむ分には罰は当たらないかなって」
……え。え? もしかして、考えってそういうこと……?
「時間がないので結局は何もできないに等しいですが。それでもわたしは、少しの間でも幸せになりたい。……そう思わせてくれたのは他でもない。ただ一人、あなただけ」
……ちょっと待てちょっと待て。そりゃ、ハナが好きって気持ちをわかるようになって、この姿の奴に心でも許したらいいんじゃないかなって思ったけどさ。
チクリと胸を刺す痛みに、嫌でも自覚する。
「(やっぱりさ、他の奴なんか好きになって欲しくないんだ、オレも)」
キサの言うとおりだってわかってる。でも…………あー複雑。『これでいい』って思ってる自分が、今目の前のハナのせいで小っちゃくなってるし。今、ハナのせいで『オレのものにしたい』とか。余計なこと、考えてる。
しかもハナが抱きついてくるわ、……あ。やっぱり大きいなとか。おでこ合わせてきて近い距離に、またオレが欲しいって。……思ったりして。



