すべてはあの花のために❽


「今のあなたは、本当に笑えているのでしょうか」


 ……ハナ? 確かに笑ってくれたけど、本当はもっと笑えるんじゃない? 心から。それができないでしょ? 運命に縛られて、あの家に囚われているんだから。


「私にはどうしても、あなたが選ぶ道に私の幸せはないんじゃないかと。そう思えて仕方がありません。あなたがもしもあの花なら、私はもうその傍にいるたくさんの花の一つだ。……だったら、一生幸せにはなれません」


 だってオレが幸せになるには、ハナが本当に幸せにならないと、そんなのやってこないから……。


「あなたはひとときの幸せでいいんですか? この一瞬でも幸せならそれでいいと?」


 そんなこと……――――させない。


「……そんなの、私が許しません!(オレが許さない!)


 そう思ったら、体がもう勝手に動いていた。ハナの、小さくて華奢なのにやわらかい体を、強く強く抱き締めていた。


「いきなりなものですか。こんなにも考えを改めて欲しいのに……どうしてこうも、あなたは頑固親父並みに頑固なんですか。手強すぎでしょう」


 変えてやるって言ってるじゃん。信じてよ。……はなッ!


「……わかりません。けれどあなたを見て、惹かれたのは事実です」


 だって、レンズ越しでハナを見つけた瞬間から。オレはもう。ハナに落ちたんだから。


「それでも私は、あなたが変わると言うまで、ここから出すつもりはありせん」


 だから。変わるって言ってよ。諦めないでよ。 幸せに。……なれるって思ってよ。


「私があなたを幸せにしてみせます! あなたが幸せなら……っ、私も。幸せだから……っ」


 ハナの幸せだけが。オレの。幸せなんだから。


「わたしの考えは変わらないです。もう絶対に。ずっと前から、決めていたことなので……」


 じゃあ。何でオレに絵本を渡したんだ。助けて欲しいって。そう思ってるからだろ……っ?


「考えは変わりません。けれど、わたしの気持ちは変わりました。あなたが、教えてくれたから」


 ……はな。それって……。


「考えは。変わりません。でも。……っ、なんでこんなに。苦しいんだろう。わたしは。幸せなんです。……これ以上の幸せなんて。ない、ぐらい」

「……うん。それで?」


 それは。ひとときの幸せだからだ。それでも今を幸せだと思ってるんだ。
 でも、もっと幸せになりたいって。そう思ってるんでしょう……?


「だ。だって。……もう。わたしには。こんな幸せは来ないって。……おもって。たから……」

「うん」


 今まで、つらいことがたくさんあったね。
 大丈夫、ちゃんと知ってるよ。


「もう。決まってることなんです」


 そんなことない。絶対に。
 決めさせないよ。ハナの幸せを、他人なんかに。


「変えられないんです」


 ハナが変えられなくても、オレが変えてあげる。約束、するよ。


「……わたし。だって……ひっく。できることなら。変えたい」


 うん。知ってる。だからオレに、あの絵本を渡したんだもんね。……なんだ。ちゃんとそう、思ってるんじゃん。自分の本当の気持ち、わかってるんじゃん。

 そう思ったら。……もう我慢できなかった。
 きっとこれは、ハナがあいつに、勝手に唇を奪われたせい。ツバサなんかとイチャついてたせい。オレが勝手にハナを想って、ハナの幸せを見てるだけで十分だったはずなのに。欲が出たせい。……ううん。きっと一番は――……。


「……っ。しあわせに。っ、なり。たい――!」

「(よく、言えました)」


 素直に話してくれた綺麗な涙と。……かわいいハナのせい。