声を掛けたハナは、どこか体調が悪そうだった。
「(やっぱり、アオイが出てきた? さっき少し目が赤かったし)」
そう思ったら「ええ。少し疲れてしまいまして。動く気力もありませんの」と。申し訳なさそうに、でも少し突き放した感じでハナが答える。
だったら……そうだな。子どもの時、母さんがよく飲ませてくれたやつでもハナにあげてみようか。それで少しは治ればいいと思い、バーテンの人にお願いして特別に作ってもらった。
渡そうと思ったら、やっぱりハナの手は冷たかった。
やっぱり無理を……あれか。集計の時。なんでもっと早く、気がついてやれなかったんだろう。
でも、ハナが美味しそうにそれを飲んでくれて、ほっと息をつく。そうしていたらハナが、どこかで会ったことがあるかと聞いてきた。
「(毎日のように会ってるよ)」
自分とはわかってくれなくても、そう思ってくれるだけで十分嬉しかった。
そんな気持ちが少し高揚した状態だったら、ハナへの褒め言葉だってすんなり言えてしまうのが不思議でならない。
それに、ハナといれるだけで気持ちが落ち着く。すごく、心地がよかった。
「あなたはもし、自分に幸せが訪れないとわかっていたらどうしますか?」
ふっと、ハナがオレにそう聞いてくる。それだけでもう、ハナは諦めてるんだなって。そう思ったんだ。
だから、どうしてハナがあんな歌を歌ったのかわかったんだ。
「……馬鹿げてる」
ハナ。それは、素敵は物語でも幸せになれる話でもない。ただそれは、信じられないような運命を、完全に受け入れているかわいそうな花の話だ。
「たとえ幸せだったとしても、あの花がいたからたくさんの花が幸せだったに決まっているじゃないですか」
ハナがいるから、オレは幸せなんだ。
「あなたも彼女も【自分の幸せ】しか見えていない。幸せとは、犠牲で生まれるものでは決してありません」
自分の幸せなんて、……そんなの本当の幸せじゃないくせに。なんでハナが犠牲になって、オレらのことを幸せにするんだ。ハナがいないと、ダメに決まってるのに。
「本当の幸せとは、あの花が消えずにいつまでもたくさんの花に笑顔を与えること」
だから、……笑ってよハナ。ハナが笑ったら、ハナを好きな奴みんなが笑えるんだから。
「一時の幸せなんて、私は欲しくなんかない。そんな幸せを分けるぐらいなら、この先の未来で本当に幸せになれるよう努力すべきです」
そんなハナの幸せなんか、オレはいらない。ハナが幸せな未来を、オレが必ず、掴んであげるから。
……でも、どれだけ説得しても無理だ。
変わらない。ほんと、頑固すぎる。ハナのくせに。
「……そんなあなたを、少しでも変えて差し上げたいと思う私は、きっともうあなたに巻き込まれているのでしょうね」
そっとハナの手を取って、会場を飛び出す。ちょっとでも気を紛らわそうと思ってダンスに頑張って誘ってみたけど、なかなか手を取ってくれないし。しかも笑われたし。
恥ずかしいんだって。わかってるでしょ? こんなことしないからオレ。オレの中でのレンだから。あ、それもそれで失礼か。
でも、「ふふっ。喜んで。名探偵燕尾服仮面さん」って言われた時は、自分も着た時確かにそう思ったなって笑った。その時にはもう、ハナの手は冷たくなくなっていて。……やさしいあたたかさだった。
「私は、会場であなたを見かけたその時から、何としてでも声を掛けたいと思っていました」
見かける前からハナ目当てで行ったけど、でも声を掛けないと消えてしまいそうだった。それに、何があったんだって。話が聞きたかったんだ。
思ったことを素直に言いながら、そっと似合わない真っ赤な唇に触れると、ハナが真っ赤な顔をして照れた。
「(……ダメだって。こんな至近距離でそんなことしたら、マジで襲うよ)」
ま、それも結局のところ我慢できなかったりするんだけど。
「(でも、笑ってくれてよかった。……その妙に凝った黒い仮面は剥ぎ取りたかったけど)」
でも、照れたハナがやっぱりかわいくって、勝手に頬が緩む。……最近惚気過ぎだな、オレ。
でも、そんなハナをなかなか変えることは難しくて、すごくつらそうにしていても『これが自分の幸せになれる道なんだ』と、断固として譲らなかった。



