すべてはあの花のために❽


 更衣室へ行ったら、部屋の前でキサが待っていた。


「あ。ごめん待った?」


 そう聞いたけど、何かを考えているようでオレの声が聞こえてないみたいだった。


「……キサ? 何かあった?」

「……あ。日向。遅かったね」

「いや、それはいいんだけど……」

「……ううん。何でもないから、さっさと大変身しよう」


 そうは言ってるけど、あの案を出し合ってる時のテンションではない。


「……ねえ、何かあったんでしょ?」

「あったけど、これはちょっと言えないから。ごめんね」

「……そっか」


 そう言うってことは多分、キサは理事長から何か聞いているんだろう。ま、あの大きな木箱に移動してたし。
 ていうことは、ハナが何かキサに言ったってことだ。


「よし! それじゃあ今日のテーマは、【王子くんになって、ついでに彼女の心も奪っちゃおうぜ☆】だね!」

「何が『だね!』だよ。普通に変装すればいいんだって」

「いやいや、それじゃあ面白くないからさー」

「別に面白さを求めてるわけじゃないんだけど……」


 なんだ、さっきのテンションの低さは。幻覚か? めっちゃ楽しんでるんだけど、こいつ。


「あれあれ! 日向! 特技審査で出したやつ出して!」

「……スマホ?」

「本気で言ってんのかコラ」

「(結構本気だった……)じゃああれかな。薔薇の花束(あれは多分そのうちキサの元に行くと思うんだけど……)」

「違うし。いらんわそんなもん」

「(あ、ごめん。なんか余計なことしたかも、オレ……)」

「あれだって! シルクハットとステッキ!」

「え? なんで?」

「紳士っぽくなるから!」

「はい?」


 わけがわからなかったけど、取り敢えず持っていた鞄から取り出す。


「夢が壊れる……」

「だから、タネも仕掛けもあるんだって」


 何を期待したんだ。見たかっただけか?


「でもオレ、特技でこれ使ったんだけど。あいつ勘いいからバレるかもしれないじゃん」

「ああ大丈夫。あっちゃん日向の特技見てなかったから」


 ――グサッ。……いや、別にいいんだけどさ。なんだろう。ちょっと悲しい。

 そこまでショックを受けているとは露知らず『すごい見たがってたんだよねー。見れなくて残念がってたしー』と、キサはスプレー缶を振りながら思っていました。


「よし。それじゃあ染めるからね~」


 結局それは言わないまま、キサは鼻歌を歌いながら髪を染めにかかった。


「あ。いいねこれ。一日だけイメチェンとかできるじゃん。これならバカっぽいオレンジ頭もマシかも」

「(え。……キサ的にはオレンジダメだった?)」

「うん! 綺麗に染まった! オレンジが見えちゃったら台無しだからね! 絶対にどこも染め残しはないはず!」

「……ん。ありがと」

「でも……そんなには気にならないんだけど、ちょっとだけ匂いするかも」

「スプレーの?」

「うん。……あ。そうだ。圭撫が確かいつも香水持ち歩いて」


 キサは、カナの荷物を勝手に漁って香水を取り出す。


「え。……それって結構するんじゃないの?」


 そう言って、二本の指で輪っかを作る。


「たった数回だけシュッってするだけだからわかんないよー」


 そう言って髪と、あとは首筋に振り掛けてくれた。


「うむ。いい匂いだ! 女の子が寄ってきそう!」

「(いや、ハナだけで十分だけどね……)」


 次は、理事長が用意してくれた燕尾服を着た。


「身長も誤魔化すの?」

「うん。絶対にオレだってバレたくないから」


 シークレットブーツで、ちょっとだけ誤魔化す。……だってレン、オレより高いんだもん。


「これはー?」

「よくわかんないけど、『声変わるンデスくん』だって」

「え。……これ、コ〇ンになれるよ?」

「うん。オレも同じこと言った」

「使い方はー……え。これ、コ〇ンくんよりもハイテクじゃん」

「え? そうなの? なんて?」

「【データは一つしか入ってないから、ただこれを首元に当てるだけであなたの声は彼に早変わり!】だって」

「そ、そう……」

「あ。日向ー、仮面も理事長が用意してくれてるみたいだよ?」

「……なんかさ、だんだん嫌な予感してきたんだけど」

「あは! あたしは面白い!」


 絶対理事長は、オレがやった特技を見てこれを用意したんじゃなかろうかと思う。