すべてはあの花のために❽


 ハナの出番になって、ステージに上がる。ハナの背中が少し、ほっとしたような、そんな感じになった。


「(てことは、もう視線はない……?)」


 ザッとさっきの二人を見るけど、二人ともさっきと同じ場所にいたし、別に嫌な感じはしない。
 それからゆっくりハナの歌声に乗せて、オレもカナも、一緒に歌い出した。


「(やっぱり、綺麗な声……)」


 初めて聞いたその時から、何度も聞きたいと思ってた。
 でもその声が、もう終わろうとしていた頃に少し変わってきた。


「(はあ。……ったく)」


 また、泣いてるんだろう。見なくたってわかる。
 でもオレには、その涙を止める言葉はかけてやれないから。そっと、ハナの肩に手を置いた。


「(……お疲れ様。大丈夫。ちゃんと助けてあげるから)」


 心の中でそっとそう呟いて、ギターを置きに行った。

 自己紹介も終わって最後の曲も終わって、アンコールの校歌大合唱も無事に終了して。1年のオレたちは急いで後夜祭の準備のために体育館へと行かないといけなかった。


「ヒナタくん!」


 行こうとしたら、ハナに呼び止められた。
 オレが謝ってから、ハナが気軽に話しかけてくれるようになって、頑張って言ってよかったってよく思う。


「何。急いで行かないといけないんだけど」


 そんなこと言ってるけど、やっぱり話はしたかったから足も止まる。


「……さっきはありがとう」

「……? ああ、バラード?」


 だったらきっと、カナにも話しかけたんだろうなって思ったんだけど。


「ううん違くて。さっきのね、歌の歌詞。嫌いじゃないって言ってくれたから」


 それだけ? それだけでハナは、オレにお礼を言いに来たの?


「さっき人によってはって言ったけど、多分大半の人からしたらあの歌、きっと悲しい話にしか聞こえないんだよ」

「……それはさ、大切な人がいないからなんじゃないの」

「え?」

「あの歌を聴いて悲しい話だと思った奴は、きっと本当に心から大切な奴なんかいないんだよ。他人の幸せを自分の幸せと思えるんだから、すごいと思うけど?」

「……ひなた、くん……?」

「……人の受け売りだけど、その人の幸せって、勝手に他人が決めちゃダメなんだって」

「え……?」

「人それぞれ幸せの形って違うでしょ? だから、あんたがこの歌詞を幸せだって思っても、そう思わない人ももちろんいる」

「……うん」

「でも、オレはそうは思わないよ」

「え……?」

「その人が、それで本当に幸せならね」

「………………」

「これはオレの意見。別に、あんたに押しつけるつもりもない」

「……うん」

「……難しいよね、幸せって」

「え……?」

「オレも最近よく思う。これで正しいんだって思っても、他人からしたら幸せじゃないって」

「……!!」

「オレも、本当にそれが幸せかって言われたら多分違う。……それもちゃんとわかってるけど、でもできないんだよ」

「ひなたくん……」

「難しいよね。なんで上手くいかないんだろうね」


 何話してるんだろ。早く行かないと、チカとオウリに怒られるのに。……でも、本当にそう思うんだ。
 わかってる。オレの一番の幸せは、こいつと一緒にいることなんだって。でも、できない。オレなんかと一緒にいたら、ハナが汚れるから。