ライブが始まって、初めはぶっ通したあと一旦キサのMCが入る。会場はただでさえどちらかというと暖房がついてるし、それにこの熱気。すっごい暑い。
オレも飲み物を飲もうと思って手を伸ばしたら、ハナの様子が一瞬おかしくなった。
「……どうしたの」
何があったのか心配だった。だって、視線がつきまとって来るって言うぐらいだし。
何事もなかったかのように振る舞っていたけれど、いつもの自信に溢れ、みんなを引っ張っていけるくらい力強い小さな背中が、今はもうどこか頼りなくなっている。
「(一体何が……)」
自分じゃわからなかった。ザッと会場を見渡すが、それっぽい姿は…………。
「(あ。あいつ……)」
でもやっぱり悪い奴には見えない。ただ、ハナの唇を勝手に奪ったって言う点に関しては悪い奴だけど。それと……。
「(あ。レンもいる……)」
オレの視線に気がついたのか、軽く手を振ってくれる。一応軽く手を上げて返すけど。
「(……よく見えたな)」
自分を見てるだなんて気づかないだろうに、普通は。
「(やっぱり、バレてんのかな……)」
やっぱりレンは、家側の人間なのだろうか。
「(そうは、見えないんだけど……)」
実際にハナのことをどんな目で監視してるのかはわからないけれど、あいつも心から疑えない。だって、課題見せてくれるし。
バラードになって、一旦出番がないメンバーは捌けるけど、ハナが観客席を睨むように見ていた。その手は力が入ってるのか、小さく震えている。
「……行くぞ」
オレの肩にぽんと手を置いて、チカがハナのところへ行く。
「(言われなくたって行くし……)」
いや、多分行けなかった。チカにそう、声を掛けてもらわなかったら。オレは、ハナに自分から近づけないから。
原因は多分視線なんだろうし、取り敢えず聞いてみたけどまたはぐらかそうとする。チカが、ハナを心配してバラードを飛ばすように声を掛けるけど、ほんと頑固なんだから出るって言ってきかないし。
「(一緒に上がったら、オレにもその視線がわかるかもしれない)」
だとしても一人は、不味い。だからカナも道連れにするけど。でも、練習も無しにぶっつけ本番でハナの声に乗せられるかわからなかった。
「ありがとうっ。最高の思い出だ!」
でも、めっちゃ笑顔でそんなこと言われたら、そんなんどうでもよくなった。
……近寄るのが不味い? いやいや、今だけは行くよ。ハナの声に乗せられるか? いやいや、今絶好調だから。
「調子はどう? 次だよー」
オレが曲の練習をしていると、ハナがそう声を掛けてきた。
「オレにできないことなんてないし」
何せ今絶好調だからね。ハナのおかげだけど。
「……ヒナタくんはさ、この歌詞聞いてどう思った?」
「え?」
聞いたというより、オレは見たんだけど……っていうのは、もちろん口には出さない。
「……嫌いじゃないよ」
だってこれは、ハナの話だから。嫌いなわけ、ないじゃん。
「……人によっては、悲しいお話だねって言われるの」
「(ハナ……)」
きっとそれは、この歌詞が自分の、もしかしたら訪れるかもしれない運命だからだろう。
「でも、わたしはそんなことは思わないよ。だって、幸せなんだ。今が」
「……そ」
ハナが昨日衣装に選んだ童話たちも、そういうことなんだろう。つらくても必ず、幸せが訪れるって。
「(大丈夫だ。必ずオレが、ハナの名前を見つけてあげるから)」
だからちゃんと幸せになれるよ。……これからずっと。
この時はまだ、ハナがこの歌を、どういう意味で歌ったのかわからなかった。



