控え室は葬式のようだった。誰一人何も言わずにそのまま着替えて、ハナとキサと合流して講堂に向かう。
何でか知らないけどチカもいた。聞いたらなんか見回りしてくれてたみたいだけど、どうせなら取り敢えず二回目を止めに入ってくれればよかったのにって思った。
でも、そんなこと言えないくらいオレらみんな傷心中。ただ目線だけで、オレらは訴えた。
どうしてキスしたんだ。しかも二回って。しかも別にさ、口じゃなくていいじゃん。なんでしたの? ほっぺでいいじゃん。ばか。
どうやらみんなも同じことを思ってたので、開演前にちょっと話をした。
「それに、チカくんにはバレちゃったから言うけど、ミスコンにわたしは『出なくてはいけなくなった』んだ」
そうハナが言ったことで思い出した。すっかり忘れてたし。
「(そうだよ。ハナは昨日のことがあって、今日は絶対にミスコンに出ないといけなかった……)」
でも、どうだ? あいつらは何か仕掛けてきた? チカの見回りが効いてたのかどうかは、きっと意味はないと思うけど。
「(カオルって奴だって、何も仕掛けてこなかった。疑いたくはないけどレンだってそうだ。それに、さっきの男も……)」
一体何が目的でミスコンに出ろなんて言ったんだ? あれか? ただハナとキスしたかったとか言い出したら、オレぶん殴るわ絶対。
それからいろいろ問い詰めて、ハナが自分から今回のことを話してくれた。取り敢えず、こっそりボイスメモをスタートさせる。
いろいろ聞いたけど……。
「じゃあなんでキスしたの」
「……優勝を条件にされていたから、最後までしないといけないかもと思って」
「なんで口にしたの」
「さ、されたんだけど……」
「なんで逃げなかったの」
「……ジンクスのことがあったから、しなくちゃと思って」
「ッ、だからって……」
「ひ、ヒナタくん……?」
「いや、もういい。わかった」
納得なんて、するわけないじゃん。守りたかったって思うに決まってるのに。あんな顔しちゃってさ。……なんだよ。ばか。
……募った。何がって? 苛々がだし。
どうしてだって? そんなの、さっきのこともあったのに、なんか兄貴とカーテンの中でイチャこいてたからに決まってんじゃん。
流石にやっぱり手が出たよね。ごめんごめん、ハナ。でも、オレをこんなにさせたのはハナだから。
「ちょっと変態。オレの兄貴襲わないでくれる」
「ひ、ひなたくん。めっちゃ痛い……」
手元が狂ってハナの方に行っちゃった。それだけ妬いたんだって。ごめんごめん。
「時間迫ってるにも関わらずそんなとこで襲わないで」
「それにも関わらずわたしに説明求めてきたのはどこのどなたよ……」
「さーて、最後の音出ししとこ~っと」
「逃げたあー……!」
だってオレだけじゃないじゃん。みんなで聞いたんだし~。
「……おい」
「ん? 何ツバサ」
ハナがオレにばちを返してくれたあと、ツバサがオレを睨み付けてくる。
「言いたいことあるなら直接俺に言えよ」
「あいつに文句があったから言ったんだけど」
「お前、ずっとそのままのつもりかよ」
「……だったら何」
ツバサもどうせ気づいてる。オレがハナへの気持ちを、抑えてることに。
「だったら葵に手出すな。中途半端なことして傷つけるんじゃねえよ」
確かにね。そうだろうよ。チカにも言われたし。
「(わかってるし。そんなこと最初から。でもオレは、こうするって決めたんだ。ただハナが、幸せになれるように。オレは何でもしてやる)」
それに、ツバサはそう言うけど……。
「(中途半端、……ね)」
どっちがだよ。お前だって、好きなくせにまだハルナをやめられてないせいで中途半端のくせに。……ほんと、ダメダメな兄弟だよ。



