すべてはあの花のために❽


 ハナは、ちょっと出てくるのが遅かった。


「先に出て迎えに行きましょうか」


 ぼそっと。多分オレにだけ聞こえるようにそう言って、あいつは出ていった。そいつが出てきた瞬間、会場が割れんばかりの歓声を上げたけど、それもハナの登場で一気に静まり返る。


「……え」

「アオイ、ちゃん……?」

「……なんで」


 信じられなかった。確かにキサが言うとおり驚いたけど……。


「……葵。すごく、綺麗だ」

「うん。それぐらいしか、言えないね」

「…………」


 言葉にならないくらい……いや。言葉がもう、出てこなかったんだ。それくらい綺麗だった。これ以上ないほど。でも。

 なんで、ハナも指輪持ってきてるんだよとか。
 何話してんの。ちょっと嬉しそうにしちゃってさ、とか。
 何お姫様だっこされてるわけ? 何顔赤くしてんだよとか。


「(何デコちゅーされてんだよ……!)」


 おかげでぷっつんいった。絶対いじめ倒す。ごめんけど、今回ばっかりは手が出るよ。

 でも、そんな気すらどこかへすっ飛んで行ってしまった。
 会場中が、叫び声を上げている。なのに、あそこは二人の世界かのようにお互いが酔い痴れていた。


「(……な、に。それ……)」


 なんでそんな顔してるのか、とか。なんで拒まないんだとか。そんなこと、オレなんかに言う資格はない。


「(あいつが幸せなら。オレも幸せなはずなのに……)」


 なんで。……どうしてこんなに、苦しいんだ。
 なんでこんなに。――……つらいんだっ。