すべてはあの花のために❽


「でも、オレはどうやったって王子にはなれないし、なろうとも思わない」

「どうしてなれない? どうしてなろうと思わない?」

「どうやったって、なれない。オレは黒いし汚い。そんな奴が、あいつの隣になんて立てない。それにオレは、別にあいつの隣に立とうとは思わない。あいつが幸せなのを見届けられたら、それでいい」

「日向の案だと、あっちゃんとは一緒に幸せになれないよ? わかってる?」

「もちろん。オレは、あいつが幸せならそれでいい」

「……ほんと、困った奴だな、あんたは」

「だからオレは後夜祭で、別にダンスには誘わないけど話ができればそれでいい。あいつがそいつのことを気になればいいなって、そう思ってる」

「え? ちょ、ちょっと日向。それって……」

「そいつ、悪い奴じゃないと思うんだ。本当のとこはわからないけど、でも女子って王子に憧れたりするでしょ? だから、ちょっとでもそういう気持ちを持ってくれたらいいなって」

「いやいや! それだとその、日向がなろうとしてる王子くんのことを、あっちゃんが好きになっちゃうかもでしょ!?」

「ならないかもしれなじゃん」

「嘘。日向はそうさせようとしてる。荒療治って、そういうことでしょ」

「……言ったでしょ? オレはあいつが幸せならそれでいいんだって」

「それじゃあダメでしょ!?」

「えー。もう、そいつになりきりセット頼んだのにー」

「え? な、なりきり……?」

「そう。だからキサ、手伝ってね?」

「そ、そりゃいいけどさ。……日向、本当にそれでいいの?」

「うん。オレは、あいつと話ができたら、あいつの口からいろんな話が聞けたら。それでいい」


 キサは大きなため息をつきながら思いました。『ほんと、どこまでも拗れまくった不器用男だこと』と。


「あーあ。言っちゃった。恥ずかしいじゃん。どうしてくれんの」

「え?」

「オレは、話せたらそれでいいんだから……」

「……話すのに、また陽菜を借りるつもり?」

「……うん。でも、ハルナを借りても姿まではもう借りられないから。それはそいつのを借りる」

「また勇気、出ないんだ」

「……そうだね」

「陽菜にはちゃんと言ったの? その子には?」

「ハルナはいつでも貸してくれるって。ちゃんと勇気が出るまで借りられる。そいつには……まあ、いつか話す時があれば」

「それでいいんかいッ」

「十分十分。だって仮面着けるし、誰かわかんないって。たとえそいつの姿を借りたとしても」

「まあそうかもしれないけどさ……」

「あ。あいつのドレス、どうだった?」

「え?」

「いいなーほんと。やっぱり隣歩きたかった」


『たまにちょっと出るデレがいいんだよね、うん』と、かわいい弟を見てキサは小さく笑った。