すべてはあの花のために❽


「……あんた、誰」

「俺は一般の参加者ですし、このコンテストで名前は控えるように説明されていましたよ?」


 そうだ。だから実況の人たちも、学校の生徒のことを名前で呼んだりしない。公平に判断するためって言ってたけど。


「……あいつのこと、昔から知ってんの」

「ははっ。……はい。そうですね」


 そう言ってきた瞳は、どこか悲しげに笑っていた。


「(……? どうしたんだろ)」


 でもそれも一瞬のこと。次の瞬間には、その瞳の奥はハナを愛おしげに見ているようだった。


「それじゃあ、また控え室で」


 そう言ってハナと同じように道着に身を包んだ男は、ステージへ上がっていった。


「(アオイは、あいつのこと知らないって言ってた。それはハナも同じだろう……)」


 でも、あいつは知っていた。それも一方的に。


「(やっぱり両親と話せって言ったから、ハナとアオイを恨んでたり……)」


 いやでも、さっきのハナを見つめる視線には、そんな気持ちは入っていなかったように思う。


「(……一体、なんだっていうのさ)」


 ただ単にオレがそう思うだけだ。勝手に。でも、そうとしか思えない。


「(あの家で、味方につけるなら……)」


 またコンテストが終わってからでも、手品教えるから連絡先教えろとか言って聞き出してやろう。

 オレはそのあと最後のタキシードに着替えるため、控え室に帰っていったんだけど……。


「(あ。やば。このままだとキサの案になる……)」


 後夜祭をどうするのかキサに言われて、何にも考えてなかったことを思い出して着替えながら大慌てで考えた。


「(って言っても実は、昨日の夜にちょっとは考えてんだけど……)」


 でも流石にダンスに誘うとか考えてなかったので、嬉しいような怖いような。そしてキサの案だともっと恐ろしいことになるような、そんな気がしてならなかった。
 控え室で待機していると、王子も着替え終わったようで……。


「え。あれってさ……」


 みんなも同じことを思ったのか、彼が着ている服装を見て、言葉を失う。しかもなんか選んでるし。……え? 指輪? マジで?
 選び終わった彼は、なんだか嬉しそうに椅子に座って体を揺らしていた。小さな声で、「何着るのかな~?」って聞こえてくる。

 なんでそのタキシードを選んだのか聞いたら、自分が取りだからと。そう返ってきた。
 彼が出ていったあと、残ったみんなは慌ててたり、勝手に嫉妬してたりした。


「だったらオレがもらうけど」


 そう言ったらちょっと活が入ったみたいで、みんなは彼のあとを追うように控え室を出ていった。


「(……ほんと世話が焼ける)」


 みんなにもだけど、もちろん自分にも。あいつの前では絶対にこんなこと言えないし。


「(……さてと、行きますか)」


 オレも、みんなに続いてステージ裏に行った。


「(まあ、ハナがあれを着るとは限らないし……)」


 でも、何故だろう。ハナならあれを着てしまうんじゃないだろうか。そんな気がしていた。