すべてはあの花のために❽


「ねえ」


 ぶっちゃけ最後のはいただけない。何? ガチでラブコールじゃん。毎日のようにあんなことしてるの? 引くわー。
 そしたらまた、ハナが時間稼ぎをしようとした。……っ、だから。違うんだって。


「話してもいい?」


 こくり……と。少し怯えた感じでハナが頷く。やっぱり突き放したのが相当堪えてるみたいだ。
 たくさんいろんなことを聞きたかった。話したかった。少ない時間でもハナの声を、たくさん聞きたかった。……でも。


「……いろいろ聞きたいことはあるけど、もうすぐ次が来るから、一つだけ」


 そっとハナの腰を引き寄せ、軽く抱き締める。
 腕の中で、ハナの動揺が伝わってくる。……ま、相手がオレだしね。


「トーマがしたくてもできないから、その代わり」


 そういうことに、しておけばいい。オレがしたくてした、なんて。口が裂けても言えるわけないし。
 そうしていたら体の力が少し抜けて、オレの肩にハナが頭を乗せてきた。

 ハナの方から近づいてくるなんて思わなくて。一瞬、……息が止まる。


「あのさ」


 でも、言いたいことがあるんだ。オレが、ハナに。
 言わないと。ずっとこのままは。……流石に嫌だ。


「この間は、ごめん」


 素直に言わなきゃ。だって、このままは嫌だ。
 離れていくのが。……嫌われるのだけは。いやだから。

 そう思うと、自然と腕に力が入る。


「言い方。キツかったと思って」

「えっと。いつもだと思うんですけど」


 まあ、そうだけどね。近寄らせないようにしてんだもん。……でも、確かにあれは言いすぎた。


「……カナに、『言い方考えろ』って言われたから」

「!」


 だから。……ごめん。
 だから。……オレとも話をして欲しいんだ。


「……うんっ。ぜんぜん、だいじょうぶ、だよ?」

「そ。それなら、いいけど」


 謝った。……あ。理由、言うんだった。


「ただ、本当にそういう話をするのが嫌だったから」

「うん」

「泣いたの?」

「……へへ。ちょびっと、だけね……?」


 カナから聞いてたけど、やっぱり本人の口から聞くと……。


「……ごめん」


 ただ、自分を守るために。ハナに嫌われたくないがために突き放して。それで、ハナを泣かしたんなら意味がない。
 本当に、悪かったって思ってるんだ。だから。……これしか、言えないけど。わかって、欲しい。

 そう思うと、また。ハナの腰に回している腕に力が入る。


「ううん。気にしてないよ? 大丈夫だよ?」


 ……嘘ばっかり。気にしてなかったら泣かないじゃん。距離感わからないとかにならないじゃん。カナに、相談とかしないじゃん。

 でも、そう言ってくれただけで、ふっと心が軽くなる。


「(……はな)」


 オレも、ハナみたいにこてんと頭を肩に乗せて、そのまま引き寄せた。


「(落ち着く……)」


 オレにとっては、なくてはならない存在だ。じゃないと上手く、息が吸えない。
 ハナがいたってオレは邪魔になんかにならない。いなくちゃいけない存在だ。


「(空気、みたい……)」


 決して影が薄いとか、そっちの意味じゃない。
 ないといけない。じゃないと、死んでしまうんだから。


「(ま、いたら落ち着くこともあるけど……)」


 落ち着けたと思ったら、今度はとくんとくんと胸が鳴る。


「(でも、しょうがないよね。だってハナが、あの頃みたいにオレの腕の中にいるんだから……)」


 それが嬉しくて、勝手に体が動いてハナの首筋に頭を動かす。


「(いい匂い……)」


 シャンプーだろうか。それとも衣装……? でも、首筋から香ってくる気がする。
 嗅いでるだけで落ち着くなあ……と思っていたら、ハナが少し身動ぎした。


「ん……?」


 どうかしたんだろうかと思ったら、「んん」と。『何でもない』と意味がこもった音が返ってくる。
 なんだか、それだけで伝わるのが少し。……嬉しかった。

 そう思ったら、今度はハナがそっとオレの服をぎゅっと握った。


「ん?」


 そう聞いたら、「んーん」と。ちょっと嬉しそうな音が返ってくる。


「んー……」


 よくわかんなかったけど、ハナもオレと同じようなことを思ってくれていたらいいなって思った。
 そのあともう一度ハナの体を引き寄せたあと。会話もなく、ただただ時間いっぱいまで。お互いの存在を、温度を確かめ合った。