すべてはあの花のために❽


 文化祭が始まり、チカの補助をしていた時ハナが茶室に入ってきた。どうやらまた変な視線に追いかけられて、ここまで逃げて来たらしい。
 気持ちが悪かったのか、自分の体を抱き締めるように腕を回しているハナの体が、小さく震えていた。チカがハナに茶を点てるらしかったから、オウリと一緒に茶菓子の準備をしに、一旦部屋を出る。


「……オウリわかる? 誰か怪しい人見える?」


 窓の外から、校内へ入ってくる一般客を見ていた。


〈わかんない
 でもあーちゃん ここに入るまで
 つきまとってたって言ってたよね〉

「……そうだね」


 それがわかるのもすごいけど。でも、やっぱりこの文化祭、何かあるだろうし。


「そんなところで何をしているんだ。九条、氷川」

「今先客が来てるから、その人に出す茶菓子の準備してる」

〈れんれん! 着物!
 よく似合ってるよー!〉


 もう一人、持て成すことができるのはレンだった。
 この頃は……まあクラスメイトだし、普通に話してた。オウリもそれなりに心を開いてるみたい。


「……先客? もしかして柊目当てか?」

「いや。ちょっと気分悪そうだったから、気分転換にお茶点ててあげてるだけだよ」

「(こくこく!)」

「……もしかして生徒会の人?」

「そうだね。雑用係兼下僕」

「(こくり!)」

「そ、そんな役職なかった気がするんだが……」


 こいつにも気をつけておかないといけない。でも別に見るものもないからっていうので、チカの補助と自分の番と、一日ここにいるって言ってた。


「にしてもレンって着物も似合うんだね。知ってた? 女子たちが茶室の王子って言ってるの」

「そんな名前までつけられてるのか私は……」

〈かっこいいよ!
 本当に王子様みたい!〉

「あれだね、この世にあるありとあらゆる服は、レンのために用意されたと言っても過言じゃないよね」

「はあ。わかった。課題写させてやるから……」

「お。話がわかるね、流石新委員長」

「はいはい……」


 家庭の事情で前の委員長が学校を辞めて、新しくその任に就いたのもレンだった。


「(課題も写させてくれるし、……こいつはやっぱり、悪い奴には思えない)」

「それよりも、お客様に茶菓子出さなくていいのか?」

「あ」

「(ばびゅんっ)」


 すっかり忘れていた。オウリは慌てて茶室へと駆けて行った。


「……レンは、いいよね」

「どうしたんだ?」

「……ううん。なんでもない」


 きっと、彼に助けられるお姫様は本当に嬉しいだろう。


「(こんな汚いオレなんか、綺麗なお姫様の視界にすら入っちゃいけないんだ)」


 容姿端麗、成績優秀。先生からの評価も高く、女子にも人気の王子様。
 片や女装経験アリの超拗れた性格で、授業は殆ど寝て過ごす、若干ストーカー気質野郎。……うわ。オレ最低じゃん。


「レンは今日ずっとここにいるの?」

「何もない限りは、ここにいるつもりだが」

「ふーん。じゃ、オレも行ってくる」

「いってらっしゃい」


 こいつの動きも見ておきたいけど、自分たちの仕事もあるからそれも難しい。


「(こいつの補助の奴に、こっそり聞いてみるか……)」


 流石に仕事を投げていたらみんなにも疑問を持たれるし、こいつにも勘付かれるかも知れない。