すべてはあの花のために❽


 そう言って、大きな木箱の花を指す。


「信人くんは、わけあってあの家に入ったんだが……」

「あれですよね。皇から記憶操作に関して逃亡して、あいつに拾われた」

「――! ……そうか、そこまで調べたのか」

「いいえ? 聞いただけです」

「……雨宮先生にかい? それとも信人くん本人に?」

「……そうですね。本人、でしょうか」

「……?」


 これはあいつとの約束だから。誰にも言わない。


「まあ、そこまで知っているならいいか。あの家に雇われる時、彼はどうやら葵ちゃんのことを家側の言い方で知ったらしい」

「――! そんなの……」


 家の言い方では、完全にハナのことを嫌いに――……なってなかった、よね。あれ?


「信人くんは、ちゃんと葵ちゃんのことをわかってあげたから大丈夫だ。彼もぼくたち同様に、彼女の名前をあそこで探しているよ」

「それでも、シントさんもわからないか……」


 あの家にいる彼でさえ掴めていない。……となると、本当に手段が。


「……あれ? でも、どうして理事長はシントさんのことを知ってるんですか?」

「葵ちゃんが、願いのことをシントくんに話したみたいなんだ。それで、根本の理由がわかったシントくんは、ぼくと手を組んだというわけだよ」


 根本の理由というのは恐らく、『犠牲者を仲間に引き入れてハナを助け出すこと』だろう。


「だから日向くん。君は恐れず葵ちゃんの願いの手伝いと、名前を見つけ出すことを続けて欲しい」

「……まあもし本当にオレが向こうにバレていたら、一番最初に消えると思うんで。後は頼みます」

「大丈夫だ。それもさせないように、海棠が君をなんとしてでも守ろう。君も、大事な桜の生徒なんだから」

「……そっか。ありがとうございます理事長」


 取り敢えずは、保険があるってことを知ったから良しとすることにして、だ。


「理事長、先生と連絡が取れないんです。何があったかご存じですか?」

「……目を、つけられたらしい」

「え……!?」

「だから、今は多分それから逃げているんだろうから、連絡が取れないんだと思う」

「結構前に送ったんですけど……」

「どうやら余程しつこいらしい」


 それほど振り解けないのか。……先生、大丈夫かな。


「ま、まあ命とか狙われてるわけではないみたいだから、連絡が取れるようになったら、きっとそれに入ると思うよ」

「……そう、ですね。それまではちょっと不安ですが、無事なことを祈ります」

「うん。そうしてあげて。ほんと、大変らしいから」

「??」


 よくわからなかったけど、何でか理事長の肩が小さく小刻みに震えていた気がした。
 そしてあっという間に、文化祭が始まる。