すべてはあの花のために❽


「だいじょうぶだよ、ひな」

「……。え」


 やさしく抱き締めてくれる手が、腕が、体が。……あったかい。


「ひなならできる。……ううん。その子のことを見てあげてたひなしかできないよ」

「……でき。ないよ」

「そう? でも、なんとかしたいって。そう思ってるんでしょ?」

「……ん」

「……今までさ、そんなこと思ったことないでしょ?」

「……? あるよ?」

「え?」

「みんなのこと」

「ひな……」

「おれらのこと、助けてくれたみんな。……何かあったら、助けてあげたい」

「……そっか。でもさ、それはみんなが大切だからでしょ?」

「……。うん」

「でも、その子のこと、よく知らないんでしょ?」

「……うん」

「でも、放っておけない。だれかもよく知らないのに」

「……。ん」


 思っていても、できない。したって自分じゃ、彼女に何もしてやれない。
 こんな自分に苛ついたの、悔しいって思ったのなんか、……初めてだ。


「すごいね、ひなは」

「え……?」


 そっと体を離して、ハルナがふわりとオレに笑いかける。


「知らない子のために、そんなに自分も悩んであげられるんだね」

「……お、れは……」

「知らない子を助けてあげたいなんて。……そんなこと思えるなんて、すごいね。ひな」

「……でも、できないんだっ」


 俯くオレの頭を、そっとやさしく撫でる。


「ねえひな? はじめはさ、自分たちだけだったよね、世界に」

「……? はるな?」

「たったふたりでさ? 自分たちを、わかってくれる人なんか、いないんじゃないかって思ったよね」

「……うん。そうだね」

「でもさ? お父さんも、お母さんも、つーにぃもわかってくれた」

「……うん」

「それからみんなも、わかってくれたね」

「うん。そうだね」

「あたしたちだけだった世界がさ、……広がったよね」

「……うん」

「あたしもさ、変わった。いろいろ」

「……男勝り」

「まあそうだけどー。……でも、ひなも変わったよ」

「……ひねくれてるのは、変わってないけどね」


 それに対して「まあね」と言い返してくる当たり、流石姉だと言いたい。


「でもさ? ひなも見方、変わったでしょ?」

「……おれは……」

「とーまくんにさ? 変えてもらったんでしょ?」

「……うん。すごいよね。おれ、そんな見方できるんだと思ったもん」

「うんうん。そうだね」

「あと、はるなも」

「ん?」

「みんなのこと、ちゃんと見られるようになった。はるなのおかげ」

「はは。……うん。そっか。それはよかった」

「うん。変わった。おれも、いろいろ」