すべてはあの花のために❽


「最初から、保険をかけてたってことですか」

「そんな言い方しなくても……」

「だってそうじゃないですか」


 オレがもし動けなくなったとしても、願いをハナが叶えることで、ハナのことを知ろうとする人が増える。


「葵ちゃんが、すくうことに意味があると言っただろう?」


 そう言って指差すのは小さな木箱に、苦しげに入る花たち。


「きっとみんなは、もし葵ちゃんの過去を知っても、彼女のことを助けようとしてくれると思ってる。ぼくの、大切なみんなだから。でも彼女はどう? みんなに素直に助けを求められるか?」

「あいつが悪いわけじゃありません」

「……そうか。もう、知っているんだね」

「あいつが悪いわけないじゃないですか! あいつはもう、ずっと前から助けを求めてる!」

「わかってるか」

「……!!」


 咎めるような低い声に、体が震える。


「あの子が助けを求めたのは、君じゃない」

「――……!」

「あの子が助けを求めたのは、女の子だった頃の君だ。……君自身は、スタートラインに立つことすらできていない」

「……っ、そんなのっ! 一緒じゃないですか! だから理事長はオレに頼んできたんでしょう!?」

「それは致し方がなかったからだ。事情を知っている君なら、彼女も傷つかない。君にも状況を早く理解してもらえる」

「……オレは。あいつを助けたいだけなんですっ」

「それは十分わかってる。……だから、言い方が悪いと言っただろう?」

「え……?」

「これは、君にとっては保険なのかもしれない。でもただぼくは、彼女の味方を増やしているんだ。君が動けなくなったら代わりにというわけではないよ」


 ふわりと、いつもの空気に戻してくれる理事長のおかげで、やっと上手く息が吸える。


「彼女をあそこから助け出すためには、よっぽどの覚悟が必要だ。それは君にも言っただろう?」

「……はい」

「彼女がすくった人たちなら、彼女を救いたいと思ってくれるだろう。ぼくはそう思ったから、彼らを味方につけたんだ。もしかしたら彼女は、彼らにだけは救って欲しいと思わないかもしれない。でも、覚悟がある人たちは彼らしかいない。葵ちゃんに関わった人たちが、そう思ってくれるはずだ」

「……そう、ですね」

「だから、……君もいつかすくわれた時。一人で助けようとするのではなく、みんなで助けてあげたらいいんだ」

「(オレは別に。ハナにすくわれることなんてものはない……)」


 強いて言えば、父さんのことくらいだ。家が元通り、またみんなで暮らせれば……。
 ……母さんは、関係ない。アオイも、言ってなかったから。


「駒のくせに、なんで言わないんですか」

「あ、あれ? 日向くん……?」

「あーあ。勝手に駒が動くから、こっちで進めてた案を修正しないといけないじゃないですかー」

「え? え?? あ、あの。……すみません?」

「ほんと、駒がいい動きするからなー。棋士とかいなくても、勝手に王手までいっちゃいそうじゃないですかー」

「日向くん……」

「オレも、みんなならあいつの話を聞いてくれると思ってるんで、それなりに仲間に引き入れる準備はしてたんです。まあ不十分すぎますけど」

「……そうかい」

「みんなにはなんて言ってるんですか? あ。ていうかシントさんはあいつのこと知ってるんですか?」

「みんなには、知りたかったら一人で近づいて知りなさいって言うつもりだよ」