すべてはあの花のために❽


「……カナ?」


 部屋に帰ってきたら、カナだけはオレの帰りを待ってたかのように座って窓の外を見ていた。


「どうしたの? 寝ないの?」

「……ヒナくんは」

「オレ夜寝ないし。授業中寝るもん」

「……そ」


 どうしたんだろう。やっぱりカナも、組の奴がやったんじゃないかって気がついて、それで気にしているんだろうか。


「……ちょっとさ。いい」


 でも、どうやらそいうことではないみたい。


「(流石は、組長の息子と言うべきか……)」


 今にも殺されそうなほどの殺気というか怒りというか、そんなのがこもった目で睨み付けられる。


「……部屋出る?」

「うん。そうする」


 オレに続いてカナが一緒に部屋を出た。
 廊下に出た突き当たり。かつてシントさんが使っていたらしい部屋の前で止まる。


「何。言いたいことあるんでしょ?」


 声を掛けてもただ睨み付けてくるだけで、何も言って来やしない。


「……何。まさか、あいつの怪我がオレのせいだって言うの」

「そうだね」


 うわ。そりゃ早く見つけてたら助けに入ったけど、なんて理不尽な。


「ヒナくんのせいで、アオイちゃんが傷ついたのは確かだ」

「は? 何でオレのせい? 別に怪我させた覚えないんだけど」


 すると、一気に距離を詰められて上から睨み付けられる。……こういう時、やっぱりもうちょっと背が欲しかったなって思う。


「……アオイちゃんに、何言ったの」

「は? いつの話? 今日とかほぼほぼ会話してない――」


 そしたらカナが、怒りをオレの横の壁にぶつけるように殴った。


「心当たりないの」

「……何。ハッキリ言ってくんない」


 ないこともない。でも、なんでカナがそのことを知っているんだ。


「自覚も無しにアオイちゃんのこと傷つけるんだ」

「…………」

「ヒナくん。それは本当に最低だ」

「…………」

「なんて言ったのか知らないけどね」


 ドンッともう一度。今度は足で蹴りつけてくる。


「好きな子なら泣かすな!」

「(……!)」


 泣いた……? そんなことあいつ、一言も……。


『葵、今日ヒナタに会う時どうしようかって悩んでた。あんなこと言われたから』


 ……泣かしたのか。オレが。


「ごめんけどヒナくん。俺は、なんでヒナくんがアオイちゃんを好きなのに泣かすようなことを言ったのかがわからない」


 オレだって。泣かしたくて泣かしたわけじゃ……ま。そんなんただの言い訳か。


「アオイちゃんはヒナくんに嫌われたって思ってる。まあ俺はそれならそれで万々歳だけど」


 嫌うわけ。ないじゃんか。


「どうしたらいいのかわからないって。距離感わかんないって言ってたよ」


 そんなの。オレは、最初っからわからないよ。


「俺は、アオイちゃんを泣かせたヒナくんが許せない」


 ていうか、やっぱりオレの気持ちってみんなにはバレてんだね。流石と言うべきなのかどうなのか。複雑過ぎる。


「このままヒナくんが、アオイちゃんに嫌われちゃえばいいのにって思ってる」


 ま、そう思われてもしょうがない。だってカナも、ハナのこと……。