すべてはあの花のために❽


「明日は、どうやらみんなが尋問するみたいだよ。思う存分心配かけたんだって、ハナもちゃんと自覚するべきだ」

『うわ~。だよねー。まあ自業自得か』

「傷は? 病院は……そっか。行けないんだったね」

『え。なんで知って……』

「言ったじゃん。盗み聞きしたって。偽物の保険証なんか使えないんでしょ? 使いたくないんでしょ?」

『……うん。シントに手当てしてもらったよ。左腕は吊ってる』

「明日は休むの?」

『いや行く気満々』

「ドMだよね、やっぱりハナって……」

『はは。そうかもね』

「……話を最初に戻そうと思います」

『ギクっ』

「ねえ。アキくんとキスしたの? 本当に?」

『あー。あははー……』

「……え。ほんとにしたの」

『え、えっと……』

「――ピキッ」

『あれ? 今なんかヒビが入った音が……』

「何でもないよ。ちょっとスマホに筋が入ったくらい」

『ええー!? それ一大事! どうするの!? もう電話できなくなったら!』

「それよりもハナが助けられなくなるとか思わないかな」

『大丈夫なの!? ねえ!!』

「(……聞こえてるんだから大丈夫に決まってるじゃん……)」

『ううぅ~。ひなたあ~……』

「あー。もう連絡できなくなるかもー」

『え……!?』

「音にノイズが混じりだしたー」

『ええー……!?!?』

「もうアオイの愚痴は聞いてやれないなー」

『……いやだっ。よお……』

「もう一つの方の番号とか、教えてあげてもいいけど」

『教えて!!』

「……じゃあ、ほんとのとこ教え――」

『した!!』

「――バッキバキッ!」

『え。……よ、余計酷くなってない?』

「……ほんとに、したの?」

『したと言うよりされたというか……』

「――バキバキバキ」

『でも、口じゃないよ……?』

「え?」

『危なかったけど、口にはされてないよ』

「……そう」

『シントも口にはしてこなかったし』

「シントさん!? どういうこと!? あの人マジで辞めさす!」

『あ。余計なこと言った』

「じゃあついでにトーマは? されたの? されてないの?」

『とーま…………あ。魔王様?』

「え、ま。魔王……?」

『口にはしてないよ? (人工呼吸は、除外していいよね?)』

「そうなんだ……」

『だから、ちゅーしたのはヒナタだけ』

「……!!」

『あと襲われた時に猫男にもされたか』

「(そいつと同類……)」

『葵の気持ちも聞いてないしね、他の人たち』

「え」

『自分だけ想ってても、葵もそうじゃないとちゅーしたって意味ないもんね』

「…………」

『ちゃんと葵のことを考えてしてるんだなーって思った! まあ好きなのには変わらないから、口以外にはしたくてしょうがなかったんだろうけどね! ヒナタはしちゃったけどねー! まあ葵知らないけどー』

「…………」

『寝てるとこを襲っちゃうなんて! ヒナタ暴走しすぎー!』

「…………」

『ということで! もう一つの方の連絡先教えてー』

「(今話しかけないでください……)」

『あ、あれ? おーい。ひなたー』

「(オレ、ただの最低男じゃん。うわー……オレだって嫌だわ。好きでもない奴に寝込み襲われるとか)」

『ひ、ひなたー? ……も、もしかしてもう。携帯さんに寿命が』

「(うわ。マジで過去に戻ってやり直したい。どこからかって? そんなの生まれた瞬間からだし!)」

『うわ~ん。ヒナタと連絡が途絶える~……』

「大丈夫。ヒビ入ったのカバー(オレの心にも入ったけど……)」

『あ。おかえり!』

「う、うん……」

『あれ? 落ち込んでる?』

「今すぐ過去に戻りたい」

『やったことはもう戻らないよ』

「(いやわかってるけど。今言ってるのはキスしたことに関してだから……)」

『……そっか。カバーなのか。よかった』

「まあしょうがないよね。好きなんだから」

『あ。開き直った』

「あれからさ、先生に連絡したんだけど返事返ってこなくって」

『無理矢理話題を変えようとしていると見た!』

「はいはい。それでいいよもう」

『こ、これは相当落ち込んでると見た』

「理事長とも話したいんだけど、捕まんないんだよ」

『そっか……』

「でも、取り敢えずあれから何もしてこない辺り、様子を見ておくことしかできないと思う」

『……そう、だね。何もないといいんだけど……』

「アオイは心配しないで。何かわかったことがあったらすぐに教えてね」

『うん。わかった』


 それからアオイの時間が来るまで話をした。


『それじゃあ。また明日、ヒナタ』

「うん。おやすみ」


 電話を終えた時間が少しだけ、延びていた。


「……ハナ……」


 短くなったと言っても、まだほんの少しだ。まだ、ハナの時間がどっと短くなったわけではないけど。


「(アオイが出たって言ってた。だからやっぱり無理をした……)」


 まだ朝方だ。みんなまだ眠っていると思ったんだけど……。