すべてはあの花のために❽


「あら? 誰かしら……」


 知らないアドレスからメールが来たけれど。


「……あれ? ひなたくん? 久し振りじゃなーい」


 写真を回収しに来て以来会っていない彼から、何故か連絡が来た。


┌                  ┐
 件名
 :お久し振りです。ヒナタです。

 内容
 :今日の午後、アカネのために
  時間を空けておいてもらえませんか?

  急なお願いで申し訳ありません。
  もしかしたら何も連絡がないかも
  しれないんですけど……

  でもきっと連絡が入ると思うので、
  お忙しいとは思うんですが、予定を
  空けておいてもらえると嬉しいです。

└                  ┘

「えーっと……〈オレから連絡があったことは、誰にも言わないでください。じゃないとナズナさんがこっそりアカネのフィギュアに、リ〇ちゃん人形の衣装を着せているのをバラします〉……って、なんで知ってるの!?」


 取り敢えず早めに出社したナズナは、午前中に頑張って今日中の仕事は終わらせていた。そしたらお昼休憩に夫から電話が入った。


『あ、もしも~し? おれおれ~! 今大丈夫~?』

「うん。大丈夫だけど、どうしたの?」

『今ね、あかねのお友達が来てるんだよー』

「お友達? ……誰かしら。最近あかねからよく聞くあおいちゃんって子には、一度会ってみたいなあとは思うけど……」

『……そうそう! 例のあおいサン!』

「ええー! うそ! ほんとお!?」

『そうそうお前が話したがってた子~。本当にこの子はすごいなって思うよー。多分おれらの気持ちもわかってるから、お前に連絡しろなんて言うんだからね~』

「(……もしかして、ひなたくんが言ってたのは)」


 彼は、もしかしたらこのことを知っていたから、そんなことを言ってきたのだろうか。


「(もしかしたら連絡はないかもって言ってたか。でも、なんでわざわざ連絡してきてくれたんだろう……)」


 でも! 取り敢えずその子とお話ししたいっ!


「話せる!? 今! 替わって~」

『え? 代われー? なんでおれともうちょっと話してくれないのー』

「いいから替わってよー」

『はーいわかったよー。ちょっと待ってねー』


 向こうでやりとりが聞こえる。
 すごーい! ワクワクする!


『……もしもし。アカネくんのお母様ですか』

「うん! はじめまして、あおいちゃん」

『はじめまして。……早速で大変申し訳ないのですが』

「ん? 何かしら?」

『いつやるんですか! 今しかないでしょ?!』

「……はい?」


 ビックリした~。鼓膜が破れるかと思った~。
 電話の向こうで夫が笑っているのが聞こえる。笑い出したらなかなか止まらない、笑い上戸だからなあ。


「……ど、どうしたの? あおいちゃん」

『は! そうです。わたし、あおいと言うんです』

「うん。それは、旦那から聞いたけど……」


 息子から聞いてはいたけど、まさか。こんなに面白い子だったとは……。


『ナズナさん、アカネくんが素直になった今がチャンスですよ?』

「え? ……どういうこと?」

『あなたもチガヤさんも、アカネくんに話してないことがあるでしょう?』

「――!!」

『今アカネくんが、あなた方から聞いた昔の話をしてくれました』

「……あ、あおい、ちゃん……?」

『午後からは、道場の方に行きます』

「……あなた、一体……」

『ナズナさん。先程も言いました。わたしはあおいと言うんです。ただの、アカネくんのお友達。……それだけですよ?』

「……そう」


 朝連絡をくれた彼は、きっと何かを知っている。


『ということで、今から腹拵えです』

「え?」

『チガヤさんが仰ってました。腹が減っては戦はできぬ! 本当にその通りですね』

「……あ、あの……」

『今からお祖父様と勝負をしてきます』

「ええ……!?」

『観戦は無料なので、早く来ないと見られないですよ?』

「……ふふっ。そうね?」


 なんて楽しい子なんだろう。話をしているだけで、こんなにとっても面白いなんて。


『お待ちしています、ナズナさん』

「ありがとう。あおいちゃん」


 それから電話を切って、早々に退社した。


「……よし。絶対お茶に誘いましょうっ」


 軽い足取りで、ナズナは家に帰っていった。


 ――――――…………
 ――――……