すべてはあの花のために❽


「どうした? なにかあった?」


 あれから何度もあそこへ行った。何度も行ったけど、時々現れた少女はずっと、涙を流していた。


「べつに」


 いつも、あの少女のことで頭がいっぱいだった。ただ、ずっと涙を流している彼女が、どうしてこうも気になるのか。


「うそばっかり! ひなー、なにか困ったことあるんじゃないの?」


 ……困ったこと。確かに、困っているのかもしれない。
 少女の涙を止めてあげたかった。苦しみを、軽くしてあげたかった。……笑わせて、あげたかった。


「べつに」


 でも、そんなこと自分になんてできない。自分ができるのは精々、困らせることか泣かせること。


「またそうやってー。双子なんだからわかるんだって」


 そんなことわかったらプライバシーの侵害だし。オレだっていろいろもう知ってるし。
 でも、彼女のことは知らない……。


 ……知りたい。


「……ちょっと、気になる子がいるんだけ」

「え!? 恋バ――「ちがう」……あ、そう」


 早とちりもいいもんだ。これだから女は苦手なんだ。
 でも、きっと冗談でそう言ったんだろう。今は、心配そうにオレのこと、覗いてくる。


「どうした? なにに困ってる?」


 なんでこうも、気持ちをわかってくれるってだけで安心するんだろう。


「……困ってるのは多分、オレの方じゃないんだけどさ」


 彼女の方。だから、ずっと泣いてるんだ。


「ひなの気になってる子が、困ってるの?」

「……泣いてるんだ」


 オレのことわかってくれるハルナなら、どうにかしてあげられるかもしれない。


「……泣いてる? その子が?」

「うん。いっつも泣いてる。泣いてるのしか、見たことない」


 それ以外は何も知らない。花の妖精なんて、オレのレンズの中の世界でだけだ。