すべてはあの花のために❽


 体育祭当日。
 アカネと何かあったんだろうなっていうのは、昨日の時点でわかっていた。だから二人が門のところで若干イチャついてても、我慢した。


「え。……ひ、日向? どこから持って来たの? 双眼鏡なんて……」

「家から。いるかと思って」

「そ、そう……」


 キサにそう返しながら、朝から早速使ってます。持って来て正解。
 時間がヤバかったから無線入れたけど、全然帰ってくる気配なし。流石に怒ったよね、うん。オレは悪くない。


〈気になっている人にお姫様だっこされる〉


 ハナの借り物競走のお題にどういうことかと問い質したかったが、全然話すことができないまま1年生組はずっと悶々してた。


「……ねえ。どういうことなの。ねえ」

「(ぷんぷん!)」

「オレも苛ついてんだよ! 当たんな!」


 ま、その悶々をオウリと二人でチカにぶつけ合ってた。


「……ねえ。あいつオレらの演技最後まで見ずにどっか行ったんだけど? ねえ、どういうこと」

「(プンスカ!)」

「だからっ! オレに当たるな! あいつに言え!」


 よさこいも、最初は見てたくせに途中で逃げるようにどこかに行った。


「なあ! どういうことなんだよっ!」
「ねえ。どういうこと」
「(ぷんぷん!)」


 お昼休みになって、やっと聞けると思ったのに、今度は電話が入って逃げられた。


「(なんなの、もう……)」


 アカネが好きなら、なんでそうやってオレらの気持ちをスルーするんだ。わかってるのかわかってないのか。そればっかりは、ハナを見ててもよくわからない。


「(……遅いな)」


 電話にしても、ちょっと遅すぎる。


「(もしかして、何かあった……?)」


 わからない。でも、自分が近づくのは不味い。


「……アカネ、ちょっといい?」

「ん? なあに? ひなクン」


 オレが行くよりも、気になってる。好きな奴に迎えに来てもらった方が嬉しいだろう。


「そろそろ午後の競技始まるからさ、あいつ呼びに行ってよ」

「え? あ。ほんとだあ。あおいチャンどこにいるのかなあ」

「さっき、校舎裏に行ったのは見たよ」

「おお! そうなんだあ!」

「このこと、あいつには言わないでね」

「え? なんで? てかひなクンが迎えに行ってあげたらいいのにい」

「行くのも面倒だし、あいつにしつこくお礼言われるのも面倒」

「お、おう……」

「……それに、オレよりもアカネに迎えに来てもらった方が、きっと嬉しいだろうし」

「ひなクン……?」

「もし言ったら、アカネの大事にしてるフィギュアに、実はあいつの名前つけてこっそり呼んでること言っちゃう」

「ダッシュで行ってくるよ!」


 ばびゅんとアカネは「あおいチャーン!」と声を上げて走って行った。


「……何も、ないといいんだけど」


 しばらくしてふと校舎の外を見たら、柵越しに誰かが歩いているのが見えた。


「――……あれは」


 アオイが言ってた。あれは確か……。


「……日下部、カオル……」


 とっさに手に持っていたカメラを起動して、パシャッと撮ろうと思った。……いや、撮ったんだけど。


「……な、に……」


 今は、何事もなかったかのように、もう彼の姿は見えなくなっている。……けど。


「……はっ。バッチリじゃん」


 あの一瞬。カオルと呼ばれるあの男は、こちらに向けてピースサインをしていたのだ。


「もしかしてバレてる? オレのこと」


 冷や汗が垂れる。動けるのはオレだけだったはずなのに、オレが動けなくなったら……。


「……っ、誰がハナを助けるんだ……」


 それだけは避けたかった。
 だから余計、オレはハナから少し距離を置かないといけないと思ったんだ。