そう言って葵は、理事長からもらったスマホを受け取って、番号Aとアドレスを記憶した。
「大丈夫? 忘れない?」
「うん。今まで覚えたこと、忘れたことなんてないから」
「……そっか」
忘れたい記憶でさえ、ハナとアオイは、忘れることができないのか。
「もしさ、葵にバレちゃったとするじゃない?」
「え? 何を?」
「バレたくないんでしょ? いろいろ」
「……まあね」
「あのね? あの家でいろいろ研究してきて、記憶に関しては、操作だけじゃなくて消去もできるようになったの。一定の時間だけだけど、そういうのも作ったの。……いつか、アオイの役に立つかと思って」
「…………」
「副作用はないし、変な薬でもない。ただ一気に眠たくなってしまって、その寝る前の記憶がなくなるだけ」
「…………」
「もしだよ? もし使いたいことがあれば使っていい。君のためになるなら、君がそうしたいなら、葵とわたしの記憶を消してもいい」
「……そんなの、使わないよ」
「でも、もし使いたくなったらいつでも言って? どうしても気持ちが抑えられなくなった時とか」
「はいはい。アリガトウ」
時刻は20時前。
「……長く話しすぎたな。葵がわたしが起きてたって気がつくかもしれない」
「それは、ハナにとっては嫌なこと?」
「誰かにこの赤い瞳を見られるのを、葵は気持ち悪いことだと思って嫌がるんだ」
「オレは、気持ち悪いだなんて思わないよ」
「……! ……はは。うん。ありがとうヒナタ」
「もしさ、アオイに連絡したい時は、あの時間帯に連絡したいいの?」
「うん! ……と、言いたいところなんだけど、実はそうでもないんだよ」
「どういうこと?」
「よっぽどのことがない限り、わたしが出てくるのは葵が眠ってる時か気を失ってる時。その逆も然りだけど」
「…………」
「だから、その時間帯に葵が寝てなかったら、わたしはヒナタから連絡があっても出られない」
「……そう、なんだ」
「だから、わたしの方から連絡するよ」
「え?」
「何もなくても、……ただ一人。ヒナタだけが、わたしの拠り所だから」
「……うん。いつでも連絡してきていいよ」
「ただ、時間が……」
「大丈夫。オレ基本夜中も起きて調べ物してるし、授業中寝てるから」
「それは。……素直に喜べない。申し訳ない」
「オレが好きでやってることだからいいの」
「ははっ。……そっか」
「だから、いつでも連絡しておいで。出られなかったりしたらごめん。掛け直せないかも知れないけど」
「ううん! 大丈夫。忙しいんだろうなって思うから。嫌わないって、信じてるから」
「うん。……ありがとう」
小さく二人で笑い合う。それだけで今は、なんだかあったかい。



