そう言って葵が指差したのは、道明寺の息子だ。
「え? 子どもでしょ? 道明寺の」
「え? そうなの?」
……どういうことだ。
「……アオイ、知らないの?」
「いるっていうのは知ってたけど。……そっか。彼が息子さんなんだ」
そう言って、申し訳なさそうにスマホを指ですっとなぞった。
「……何か、あったの?」
「初めの頃は、わたしが暮らしてたって言ったでしょ? あそこで」
「そうだね」
「その頃は、二人に子どもがいるなんて知らなかったの」
「え」
「引き取られたばかりだし、子どもの話なんて出てこなかった。ご飯の時だってなんだって、いつもわたしとアザミとエリカ、時々秘書が姿を現してただけで。……見たことなんか、なかったんだ」
「…………」
「子どもがいるって知って。……ご飯も一緒に食べないとか、一緒にいてあげる時間が少ないのは、よくないって思った。子どもにとって、親は大切な存在だ。たとえ嫌われてても、一緒にいたかったんだ」
「アオイ……」
「……葵がね? そうだったから。だから、あんな親でも子どもとの時間を大切にして欲しくって。わたしは何でもするから、子どもともっとたくさん話してあげてってお願いしたんだ」
「……アオイは、優しいね」
「でも、子どもは二人を嫌っていた」
「え」
「多分、わたしにつきっきりだったから、子どもは喜んでたと思うよ。二人が離れてたから」
「ちょ」
「でも、わたしが余計なことをした。だから、恨まれてもしょうがないんだ。……また、勝手にわたしがそう言ったから。いろんな人が、嫌な目に遭う」
「でもさ、こいつに会ったことないんでしょ?」
「……うん。まあね」
「直接こいつに聞いてもないんだからさ、勝手にアオイが決めちゃダメだよ。こいつの気持ち」
「え?」
キサの言葉を借りて。こいつの罪悪感を、少しでも拭ってあげたい。
「だってさ、アオイやハナに嘘ついて、騙していいように使ってた二人でしょ? そう言ったのだって、アオイを縛り付けるための嘘かもしれないじゃん」
「…………」
「だからさ、アオイも自分がやってきたことに責任を感じるのはわかるけど、きちんと話そう? わかってもらえれば、きっとアオイもすくわれるよ」
「……うん。ありがと、ヒナタ」
「……! ……いいえ。どういたしまして」
ふわりと、やさしく笑ってくれるアオイが。……やっぱり、ハナのようで違った。
「……ハナ、まだ消えないよね」
「え? うん。大丈夫だよ。名前が本当に変わるか、20歳になるまでは絶対に消えない」
「そうなの?」
「うん。葵には言えてないんだけどね。でも葵の、一日の時間が短くなることは確かなの」
「……どういうことか教えてくれる?」
「情緒が不安定な時は、わたしも出たり引っ込んだりしてたの。今は安定してるから、夜中の2時から4時まではわたしの時間。この時間が、MAXわたしの時間が短くなる時間」
「今はなんで出てきてるの?」
「葵が、……ちょっと無理して倒れたから」
「やっぱり、無理してたんだ」
「だから、ちょっと削られた。葵の時間。その拍子にひょっこり出てきたの」
「……他に削られる条件は?」
「無理をすること、日記を書かないこと。あとは、……わたしの嫌いなことをすること?」
「え」
「それが契約だからね。葵をあの時助けるための」
「……たとえばどんなの?」
「言うてしょっちゅうやってるんだけどね、葵は」
「え」
「コーヒーを飲んだり。髪の毛切ったり。女の命でしょ?」
「…………」
「それと、わたし赤色が好きなの。なのに、葵は男の子みたいな色ばっかり選ぶの!」
「…………」
「いいじゃーん。ちょっとくらい我が儘言ったってー。葵をかわいく着飾ってあげたいんだもーん」
「……ほんとに味方だよね」
「疑われてる……!?」
「先行き心配……」
「そんなに得意じゃないのに、当て付けみたいにコーヒー飲んでるからね。ある意味中毒になってるよ~」
人のことは言えないと思ったけど、今はそんな話をしてる場合じゃない。



