すべてはあの花のために❽


「……え」


 一瞬、自分の目を疑った。


「え……?」


 一度カメラを離して、もう一度やり直してそこから見たけど……。


「……お花の、ようせいみたい……」


 たくさんの花びらを頭に体につけている少女は、とてもかわいらしくて……。


「……泣いてる、の……?」


 ぽろぽろと、少女の瞳から零れ続ける涙が……とても、綺麗だった。


「……きれい……」


 ぼそり、そう呟く。それ以外の言葉が出てこない。
 母さんの妄想だったけれど、本当に絵本から飛び出した妖精なんじゃないかと。……そう、思って。

 オレはあの少女を撮ってみたいと思った。花の妖精のような、かわいらしい少女を。



「…………だめ」


 でも、シャッターは切れなかった。指が、動かなかった。


「……なんで、泣いてるんだろう」


 ずっと泣いてる。レンズの向こうで。


「……すごい、くるしそう……」


 小さくなっていた。レンズの中の少女。


「……なんとか。してあげたい……」


 できるだろうか。こんな、歪みきった自分に。


「……声。聞いてみたい……」


 できるだろうか。こんな、こじれた自分に。


「……えがお。……見たい」


 できるだろうか。こんな、捻くれた自分に。


 どうしてだろう……。初めて会ったのに。
 どうしてだろう。近くにいてあげたいなんて。

 ……どうして、だろう……。あの少女のことを知りたいと思うだなんて。


 今まで、何も興味がなかった。
 でも、カメラおかげで、世界の見方が変わった。

 今まで知ろうともしなかった。
 でも、姉のおかげで、大切な人を、知ろうと思った。

 変わった。確かに、見方が。
 変わらなかった。モノクロだった世界が。


 でも、レンズの中の世界にあの花の妖精を見つけた時から。

 モノクロだった世界に……オレの中に、ちゃんと色が差しはじめたんだ。