膝を抱え小さくなった葵の肩を、そっとやさしく叩く。
「まだ、ちゃんと話してない」
「……?」
「アオイ、そこで終わったら本当に葵たちが悪い人間になってる。そこで終わっちゃいけない。どうしてそんなことをしたのか、ちゃんと話して」
「……初めは。アザミの手伝いになれると思ったんだ。アザミから、警察の仕事の手伝いをしてるから、その相談に乗ってくれって言われて」
「いつの話」
「……? 最初に会ったのは。4つの時……」
「……続けて」
「人の役に立ててると思って嬉しくって。その相談に乗ってたんだけど。……アザミの話では、どの家の人も悪く言われてた」
「たとえば?」
「『ここの家は悪いことをしてるんだ。でもその証拠が見つからなくて。君ならどうやって警察にバレないように悪いことをするかな?』って」
だから、悪い人を捕まえるお手伝いならと思って。初めはいろいろ意見を言ってたんだ。
でも本当の理由を知ってからは、葵を人質に取られて、わたしはいろんな罪を負ってきた。
「今まで言った以外にも何かをしてきたの?」
「……言ったでしょう? 薬と記憶の研究だって」
「うん。それ、教えてくれる?」
「……薬は、反応が出ないように作らされた」
「え」
「記憶は、言わば操作なんだ。人を動かすことが彼にとってメリットがあるらしくて、それを作らされた」
「……もしかして、さ」
「アキラが着けていたものは、……わたしが作ったものだ」
「……!」
「葵も今のこと。花咲の二人が葵のためにそういうことをしたこと以外は、知ってる」
「え……」
「ものがどんなものかとかはハッキリとは言ってないけど、そういったものを作ったこととか。家の名前は確実じゃないけど、もしかしたらみんなは、わたしたちが酷いことをしてしまった家の人間なんじゃないかって。……何となく気がついてる」
「……酷いこと、させられたんじゃん」
「……あくま、くん……?」
だからハナは、あの家が嫌いだったんだ。こんなことさせられていたんなら、いるのさえつらかったはずだ。
「……気づいて、あげられなくて。ごめん」
「え……?」
「あの時、ちゃんと無理矢理にでも聞いておけばよかった。あの時、帰すんじゃなかった」
「……過去は、戻せないよ」
「わかってる」
でも、悔しいんだ。あの時、そうしてたら……って。
「今わたしは、そのできたブツを移動させる手段を考えさせられている。それに、海棠を利用させる気なんだ」
「海棠を……!?」
「葵をSクラスで卒業させ、その援助をさせる計画。……海棠が、最後のターゲットなんだ」
「理事長が、生徒を全員人質に取られてるって……」
「え。それも知ってるの……?!」
「うん。……そっか。だから動けないんだ」
「……わたしたちが知ってることは以上だ。きっと他にも、あの家はしているよ。……わたしたちが、知らないところで」
今まで言われたことが、本当に真実なんて思えなかった。……でも。
『きっと彼女も気がついた時、これ以上ないほど嬉しいと思うよ』
『るにちゃんを。……ころしちゃって。ごめんなさい……!』
ハナが願いを叶えているのは、……罪滅ぼしなんだ。
「(そんなこと、思いたくなかったけど。もう、そうだって言ってるようなものじゃないか)」
「……きらいに。なったでしょ」
「そうだね」
ドスの効いた低い声に、アオイがビクッ……と体を震わせる。そんな彼女の頭を引き寄せた。
「……!」
「誰にも、言えなかった?」
「……?」
やわらかい口調で、とんとんと頭を撫でてやる。
「嫌いになったのは、道明寺だ。ハナやアオイじゃないよ」
「……っ」
「つらかったね。大切な人が傷つくってなったら嫌だもんね。そうするしかなかったんだもんね」
「……っ。ひっく……」
「大丈夫。絶対に助けるから。……アオイも、解放してあげるからね」
「……。っ。う、んっ……」
ただ、アオイは静かに。ほんの少しだけ、涙を流していた。



