「花咲で育てられていた葵の、頭に目をつけた道明寺薊が、葵を手に入れようとして二人のそういう現場をわざと目撃させたんだ」
「じゃあ、絵本に書いてあった嫌なことって……」
「ヒイノさんは知らなかったはずだ。もちろんミズカさんも。葵も、このことが計画だったってことは知らない。まんまとアザミの手の内とも知らずに、自分のせいでまた家族が壊れるのを恐れた葵は、彼の甘い誘いに乗ってしまった。花咲の二人も、止めなかったのが原因だけど」
「……止めたくても、できなかったんだ」
「え?」
「ハナを人質に取られてるんだ。あの人たちも」
「――! 会ったの? 二人に」
「うん。だから、これで一つ話が繋がった」
「……そっか。二人が止めなかったのは、それが理由だったんだ」
「続き。教えて」
「そのことも原因で葵は少し情緒不安定で。初めはあの家で殆どはわたしが暮らしていたんだ」
「……そうなんだ」
「わたしも、その時はまだあそこの家があんな最低なところだなんて知らなかったんだ。だから、荒療治をしようとしたら。……あんなことにっ」
「うん。ゆっくりでいいよ」
「葵に。誰か好きな人ができたらいいなって。そう思ったんだ」
「…………」
「お、……怒ってる?」
「続き」
「そ、それで、わたしが目をつけた人を好きになれば、嫌な記憶もなくなっていくんじゃないかなと思ったんだよ」
「荒療治過ぎ」
「そうだったんだろうね。……それを、アザミは利用したから」
「………………」
「彼も葵の名前を探してくれていると思ったから、結婚するまでには見つけられるだろうと思って、その人と結婚したい的なことを言って……」
「的じゃなくてそう言ったんでしょ」
「はい。すみません」
「……それで?」
「そこで初めて、葵が道明寺に連れてこられた、本当の理由を知ったんだ」
初めから、名前を探すつもりなんてなかった。あの家はその人との結婚を取り付ける代わりに、薬や記憶に関するいろんな研究をわたしに強いてきた。そして、……邪魔者を消す手伝いも。
「薬は聞いてたけど。記憶……?」
「なんで寧ろ薬のことは知ってるの? 表にはバレてないはずなのに」
「……オレの話はあとにする。先に教えて」
「わ、わかった」
アオイは、何度か深呼吸を繰り返して、意を決したように顔を上げた。
「一番初めの犠牲者は、五十嵐。彼らから母親を奪った」
「……!」
「次は氷川。彼から父親を奪った。それから母親を壊した。彼の声を奪った」
「……!!」
「次は朝倉。彼の父親を過労死させた」
「…………」
「次は二宮。彼の祖父と父親を、道場の人間を利用して襲わせた」
「…………」
「次は柊。会社を内側から攻撃させた。両親を追い込んだ」
「…………」
「次は、桜庭と桐生。彼らの血への執着を利用して、家を崩す計画をした」
「…………」
「次は九条」
「――!!」
「九条冬青を標的に、家庭を壊した」
「(薬のことは違う……? ハルナの、ことだけ?)」
「次は皇。弟アキラの誘拐に失敗し、母親を奪った。父親を壊した。兄を縛り付けた」
「…………」
「次にもう一度、桜庭と桐生をけしかけた。最後にもう一度、五十嵐」
「…………」
「息子の周りの人間を傷つけたのは。…………わたしたちだっ」



