すべてはあの花のために❽


「え。だ、大丈夫?」


 できた連絡を受けて部屋の外に出たら、壁にもたれ掛かって脂汗をかいて座っているハナの姿があった。


「あ……ヒナタくん。うん、大丈夫。ちょっと、頑張りすぎた、だけ……」

「(……ばか。めっちゃつらそうじゃん)」


 そうは言っても時間が迫ってきている。ハナの汗を拭いてあげて、ザッと確認していったけど……。


「(これが、異常……)」


 恐らく一言一句違わずに書かれた資料を見て、心でそう思った。


「はあ。はあ……っ」


 確認している最中もずっと、つらそうにしているハナを見て、心が苦しくなる。


「(……オレが、替わってやれたらいいのに)」


 保健室に行けというのに、説明すると言って聞かないハナの様子を心配していたら、気持ち悪い視線を感じた。


「(一瞬。ハナを見てた気がするけど……)」


 自分より勘のいいハナは、それに気がついていないようだった。


「(気のせいじゃ、ないと思うんだけどな……)」


 そう思っていたら、無理をしたハナが大きな音を立てて倒れた。


「え……っ、ちょっと! しっかりして!」


 取り敢えず生徒会室に運んで、冷たくなっているハナの体を温める。
 荷物を取りに、一旦視聴覚室に戻ると、また銀色がちらついた。


「(一回絞めてやろうかな、マジで。ちょろちょろちょろちょろ。苛つくんだけど)」


 生徒会室に戻ると、ハナが静かな寝息を立てて眠っていた。


「……ほんと、どっかのお姫様なんじゃないの」


 白く透き通った肌に、布団が温かいのかほんのり赤く染まる頬。まだ少し冷たかった手を、そっと握ってやる。


「……起きてハナ。一緒に帰るよ」


 普段は言わないようなことも、すっと言葉が出てくる。


「……ハナ。ねえ、目を覚ましてよ」


 決して自分なんか、王子にはなれない。
 ……そんなの、わかってる。でも、勝手に言葉が出てくる。勝手に体が、……動く。


「…………はな」


 まだ起きないでくれ、とか。でも目覚めてくれたらいいなとか。
 そんなことを思いながら小さく眠る彼女を呼んで、その愛らしい唇にそっと。内緒のキスをした。