すべてはあの花のために❽


 俯いていたら日が陰ったような気がして、ゆっくりと顔を上げる。


「ありゃ。どうしたんだ弟よ」

「……きさ」


 確かキサはトーマとキクと一緒に観光してたはずじゃ……。
 お店の人が熱中症かと勘違いして、慌ててスポーツ飲料を渡してくれる。


「あ。すみません。大丈夫です。……ちょっとフラってきただけなんで」


 オレがそう言うと、どこかキラキラした瞳で店員は帰っていった。
 奥の方で、「さっきのちょっと喧嘩ぽかったね!」とか「いやいや! あれは禁断だったわ!」とか言ってるけど。……無視することにしよう。今はまだ、ダメージが大きすぎて動けない。


「どうしたの日向。チカは? 喧嘩でもしたの?」


 喧嘩……かな。よくわかんないけど。
 大抵のことに関しては、チカはキレてもすぐにケロっとするんだけど。


「……なんかあった? 言ってみ? お姉ちゃんに」


 ……姉、か。
 確かに、オレにとって姉という存在はすごい大きかったし、有難いし、いつも助けてもらってた。


「……キサは、さ」


 そう思ったら、何でかするっと言葉が出てくる。
 それだけ、結構オレにも効いてるんだ。あいつの、パンチが。


「キク、めっちゃ好きだよね」

「そうだね?」

「どれくらい?」

「え? う~ん。菊ちゃんを思って死ねるくらい?」

「え」

「菊ちゃんがこの世にいないなんて、考えられないもん。菊ちゃんのためなら死ねるし、菊ちゃんが死ぬんならあたしも死ねる」

「……そっか」


 言いたいことは十分伝わった。最上級で、これ以上ないくらい好きなんだってこと。


「もしもの話だけど、絶対にキクを好きになっちゃいけないってなったら、どうする?」

「え。何それ無理」

「だから、たとえばだって」

「どうして好きになっちゃいけないなんて思うの? どうせ自分のことを好きになってくれないだろうから?」

「……それも、あるけど……」


 だって、ただでさえ悪魔だし。オレとは少し、距離を感じるし。
 ま、オレも不用意に踏み込んでこられないようにしてるけど、あいつもオレに対してはほんの少し余所余所しい。みんなに比べて。


「たとえ好きになってもらったとしても、本当の自分を暴かれたらきっと幻滅する」

「日向……」

「幻滅されなかったとしても。大切で大事だとしても。幸せに、してやれない」

「…………」

「だったらもう、押し殺すしかないじゃん。押し殺せてなくても、もう。無理なんだから……」


 膝の中に頭を埋める。……情けない。こんな自分。