すべてはあの花のために❽


 初日の宿。奪還組とはここでお別れ。最終日まで会わない。


「(……声、掛けに行こう)」


 行ける。動け……。動け…………。


「(頑張れって、言ってくるだけじゃん。別にあいつを笑わせてやるってわけじゃないんだから)」


 だから動けと、必死に重い足を引き摺って、ハナがいるところまで行った。
 ハナは忙しいのか、トーマの家に行く準備をしていた。


「(……ここまで来られただけで進歩でしょ)」

「ヒナタくん? どしたの?」


 ちょっと待ってよ。今自分に、よく頑張ったって褒めてるんだから。
 でも言いたいことをちゃんと考えていなかったので、結局ハナが準備が終わるギリギリになって声を掛ける。


「……あのさ」

「なに?」


 一対一で話すことなんてない。いや、オレが少し避けてたところがある。
 でも、このままってわけにもいかない。


「絶対成功させてよ。キサとキクたちのこと、頼んだから」


 自然と、持っているスマホに力が入る。
 ……どうか、自分が判断したギリギリを、ハナがすくってくれますように。


「(どうかハナが。願いを叶えられますように……)」


 ハナがオレの目の前に立ったので、ゆっくりと視線を上げて見上げる。


「(……はな? もしかして……)」


 そう思ったら、ハナに握り締めている手を、上から包み込むように握られた。


「(――! はな……)」


 やさしい香り。ふわり、あの頃の記憶がふと蘇ってくる気がする。
 ……でも。やっぱりハナの手は震えていた。


「(……不安なんだ)」


 どうやったら、彼女に勇気を、自信をあげられるだろう。


「(こんなオレは、ハナに何もしてやれない……)」


 励ます言葉なんて思い浮かばない。今のオレには、ハナを笑わせられない。できても泣かすことくらい。


『だれかがいると、あったかいよね』

「(ハルナ……。……うん。そうだよね)」


 人の体温だけで、オレは何度ハルナに安心させてもらっただろうか。


「(……悪魔、か。あながち間違ってないけど)」


 こんな捻くれ者の悪魔の体温なんて、今のハナにはもしかしたら何にもならないかもしれないけど。


「(……ハナ)」


 ちょっとぎこちないけど、そっともう片方の手で、ハナの手を上からそっと包み込む。


「(……大丈夫だ。ハナならできるよ)」


 こんな言葉、直接掛けることなんてできない。だから心の中でそう言って、安心できるようにほんの少し力を込める。
 そしたらすぐに、ハナが離れていった。


「(……やっぱり、オレじゃダメか)」


 そう思っていたけど、何かにハナが必死に堪えているような、暗い表情になっていた。


「(……もしかして。甘えそう、だった? オレに?)」


 違うかもしれないけど、そう思ったら自然と声が出てくる。