「ありがとうございました。明日には結果が出せると思うので、楽しみにしていてください」
「(……あ。ハナ……)」
どうやら歓迎会のアンケートの集計に来たらしい。
「(……無理、し過ぎないように……)」
ふら~っと、ハナに誘われるかのように体が動いた。
「(……集計、手伝ってやろう)」
そう思って後をついて行ってたら、ある空き教室のところで少し止まった。
「(……ん? どうしたんだろう)」
すぐに去って行ったけど、なんか後ろ髪を引かれてるような感じだった。
「(気になるなら、もうちょっといればよかったのに……)」
そう思って、自分が今度はその空き教室を覗く。
「……向こうも、納得してんのかよ」
「合意の上よ」
「(チカと、キサ? 二人で何して……)」
「ほんとにそうなのか?! お前! キクが好きなんじゃないのかよ!」
「だったら何? あたしは今後のことも考えて、杜真と結婚した方がいいと思った。それだけよ」
「(えっ。トーマ……!?)」
「そのトーマもお前も! 結婚に本当に納得してんのかって言ってんだ……!」
「だから言ったじゃない。杜真も合意したって」
「……っ。また、お前らの家が絡んでんだろうが、どうせ」
「…………」
「(キサ……?)」
「やっぱりな。……お前、それでいいのかよ。このまま、本当に好きな奴がいるのに! 家のために! 血のために! なんでお前が犠牲にならないといけねえんだよ!!」
「……いいの。これで」
「キサ!」
「これしか。……っ。幸せな道は。ないのよ……っ」
「(!! 幸せな、道……)」
「お、おい。何も泣くことないだろ……」
「……ありがと、チカ。そう言ってくれるだけであたしは嬉しい。……あんたも頑張りなね? ……幸せに。……なりなね……?」
「キサ……」
ただ涙を流しているキサに、それ以上の説得なんてできなくて。
チカはキサが泣き止むまで、ずっとそばにいてあげていた。
「……どういうこと……」
ハナの手伝いどころじゃなくなったオレは、一人教室に戻って考える。
「(婚約者はトーマ……? でも、そんなこと一言も)」
ここはトーマに聞きたいけど、なんかはぐらかされそう。
「(キサの親の住所。連絡先には確かに、徳島って書いてある……)」
てことは、二人の会話からして……。
「(やっぱり、キサの相手はトーマだ。キサのことが好きでも、キクの気持ちを知ってるから、このままじゃダメ的なことをトーマは子どもの時に言ってたんだ)」
それに、この結婚は……。
「(……本人同士が、納得してない)」
でも、これは『願い』だ。オレは手を出すことができない。
「(……っ、ああもう! 助けるって言ったって、どう助けたらいいの!)」
よくよく考えたら、一番難しいポジションにいるんじゃないのオレ。
「(……ハナなら、どうする……)」
あの時は知らなかった素のハナを見た。よく気がつくけど、いろいろ無茶しそうだ。
「これだけはわかる。あいつは絶対に無茶をする」
ハナの性格上、本当に大切なものは絶対大事にするだろう。
「……手伝うって言っても、ハナじゃないんだからわかるわけが……」
取り敢えず、一番外側に手をつけてみるしかない。
「母親には、〈桐生杜真という男とあなたの本当の子どもが結婚することになりました〉……っと。今はこれぐらいにしておこう。確実じゃないし」
父親の方には……うん。取り敢えず、オレが知ってる個人情報を送りつけておくか。
「はあー。わかってて何もしちゃいけないのが。一番つら……っ」
メールを送ってからしばらくそこから動けなかった。
「…………はな」
どうか無茶だけはしないでと。そう願うことしか、自分にはできなかった。



