すべてはあの花のために❽


 そんなことを思っていると、隠し扉が開いた。


「どうだったかな、日向くん。君の案は成功かな?」

「……成功なんじゃ、ないですか」


 自分で言ったんだ。これが正しいと、オレはそう思ってる。
 扉から出たあと、理事長がコーヒーを注いでくれた。


「彼女に話もできたことだし、君にも話をしておこうかな」

「その前に、なんであいつを巻き込むんですか」


 こんなこと、ハナがする必要なんかない。ただ毎日幸せそうに笑ってるだけでいいんだ。


「これは、彼女のためなんだ」

「え?」

「気休め程度にもならないかもしれないけどね」

「……よく、わかりません」

「きっと、どうしてぼくがそんなことを願ったのか。わかる時が来るよ」

「…………」

「彼女のそばにいて知りなさい。ぼくからは話せないから」

「……そばには、います。でも見えないところに、オレはいるんで」

「日向くん……」

「理事長も、何とかしようとしてくれたみたいでありがとうございます」

「ぼくも菊も、もう大人だから……」

「いいえ。オレらがそのことに触れて欲しくないんです。だから、これでいいんです」


「でも」と、オレは続ける。


「なんで、あいつにあんなことさせるんですか。オレらはもう放っておいて欲しいのに」


 そう言うオレは、母さんのことではなくハルナのことを言ってるつもりで話す。


「……言っただろう、彼女のためだと。それに、君たちももう、向き合わないといけない。彼女に知られるのが嫌なら、彼女が自分のことを知る前にちゃんと向き合いなさい」


 そんなの、オレはもうハルナと向き合ってる。向き合えてないのは、父さんがオレらにだ。


「君とは別の話があるんだ」

「……なんですか」


 ちょっと敵意剥き出しで言うと、理事長は呆れた顔をする。


「そんなことを今どうこうできるか? 彼女を止めるのか。あんなに嬉しそうに、最初で最後の友達になるかもしれない君たちを、助けることもさせてあげないのか」

「最後になんてさせません!」


 オレが声を張ると、流石に言いすぎたと思ったのか。理事長は「すまない」と一言謝る。


「だが、引き受けたのは彼女だ。それを君は止めるのか? みんなのことが心配じゃないのか」

「……心配に、決まってるじゃないですか」

「君も、みんなを助けてあげたいと思わないのか?」

「……ずっと前から、思ってます」

「日向くん……」

「でも。オレは何も、みんなにしてやれなかったから……」

「……大丈夫だ」

「……?」

「彼女はきっと、ぼくの『願い』を叶えてくれるよ。……きっと君も、救われる」

「……オレのことは、知って欲しくないんですけどね」


 そう言うオレに、彼は小さく笑うだけだった。