放課後、ダッシュでオレが理事長室に行くと思う?
行くわけないじゃん。帰りのHRは出ずにゆっくり来ました。
「失礼します」
「あれ? 早いね」
「ウチの担任めちゃ早なんで」
「そうみたいだね。まあ仕事してるならいいんだけど」
取り敢えず、そう言っておくことにする。
「それで? 今日話すことって?」
「ああ。ぼくからは、『彼女』に話したあと君に話すよ」
「え? どういうことですか?」
「取り敢えず、これを君に」
そう言ってくれたのは。
「なんですか、これ」
「イヤフォンだよ?」
言うが早いか、理事長はオレにそれを着けてくる。
「ちょ……っ」
「それから、これも持って入ってね~」
そう言って小型の機械を渡したあと、壁に向かって背中を押される。このままだとオレ、壁と理事長のサンドイッチの具にされるんだけど。
「ここの奥なら、きっと勘の鋭い彼女も気がつくことはないだろう」
「え?」
「いいかい。本気で陰で見守りたいというなら、物音一つ立てず、ここで静かに聞いていなさい」
そう言って理事長は隠し扉を開く。まさか、まだあったとは……。
「ぼくのマイクで彼女の声も拾ってくれるはずだ。君が提案したことだからね。きちんと最後まで聞いていなさい。そしてぼくがここを開けるまで、絶対に物音を立てずに存在を消せ。いいな」
そう言って扉を閉めてくれたんだけど……。
「(……誰?)」
あの理事長の変わりように、よく似た別人なんじゃないかと思ってしまった。
「(にしてもここ何? 暗くてよく見えないけど、ただ金庫っぽいのがあるだけじゃん)」
そうしていたら、誰かが入ってきたみたいだ。
『ミノルさ~ん、コ~ヒ~』
『え。菊? ここは休憩所じゃないよ』
「(……なんでキクが来んの。構えて損した)」
『いやまあ、ちょっと道明寺のことで相談』
『ん? どうかしたの?』
『どうもオレは、あいつが怪しくて仕方ねえ』
『菊……』
『オウリのこともあるし、あいつらみんな優しいから友達がいねえあいつを思って声を掛けたかもしれないけど。……途中編入で、しかもあの一番難しい編入試験を満点で通ってきた奴なんか、見たことないだろ?』
『……まあ、途中編入自体が珍しいことだからね』
「(満点……!?)」
『なあ、ミノルさんは知ってるんだろ? ……道明寺 葵は、一体何者なんだ』
『お前は担任だから、少しは知っておいた方がいいかもしれないな』
「(……!? ちょっ、そんな簡単にあいつのことバラしたら――)」
『彼女はね菊、『ある病を抱えたとてもかわいそうな少女』なんだ』
『へ?』
「(え)」



