「あまり長居をしているとバレてしまうので、先に失礼しますね」
そう言って、先にコズエ先生が立ち上がる。
「……九条くん」
「断らせませんよ。精々いい働きしてくださいね」
「それはいいんだけどね? 助けてくれた恩もあるし」
「(……助けられて。ないじゃないですか……)」
彼女に残る痛々しい疵痕がその証拠だ。
「私は、家の指示でまだ眠っていることになってるの」
「え」
「病院側も家に取り込まれてるみたいでね。裏口を合わせてるらしいわ」
「…………」
「私がこんな任につけたのは、知人も親戚も、私のことを心配するような人はいなかったから。動きやすかったの」
「え……」
「大丈夫よ? 今はみんながいるし、公安もよくしてくれてる」
「(それって、失敗してたら捨て駒にするんじゃ……)」
「だから、私が目を覚ましたことは内緒にしておいて欲しいの」
「……みんな、心配してます」
「それはあなたの顔を見れば十分わかるわ。でも家からしてみたら、誰も眠っている人物が動いてるなんて思わないから、使い勝手がいいのよ」
「…………」
「だから……ね? そう言ってくれるのは嬉しい。いつかみんなにも元気な姿を見せてあげられるように、あなたの駒にでもなんでもなるからね」
「…………。は、い……」
みんなも心配してる。だから、早く先生の元気な姿が見せられるよう、一刻も早くこんなことを終わらせないと。
「それと、もう一つ」
「……?」
「恐らくだけれど、あの家は彼女の名前を掴んでいるんじゃないかと思うわ」
「ほんとですか……!?」
「私もそう思う。いろんな伝を使っても彼女の名前が出てこなかったのは、家が隠した可能性が高いね」
「……隠した……」
「憶測だけれど。それだけやっても出てこないってことは、先手を打って彼女の名を消した可能性だってある」
「……!! 消、した……」
「まだわからないと言っただろう? そんな不安そうな顔をするんじゃない」
「あの家でそれを知っていそうで、こちら側につけることができる人間がいれば。……もしかしたら、彼女の名前に関して情報を得ることができるかもしれないわ」
「…………」
「あそこの家に関係する人物写真は、そのスマホの中に入ってるから、それを見て。隠し撮りで申し訳ないけど」
「いえ。……十分です」
ざっと、フォルダを見ていく。先生が指で画面に触れて、その人物を説明してくれる。



