そう言って理事長は、電話のアプリを開く。
「このスマホは、一台で二つの番号が入れられる」
「え」
「もし何かあった時は、AではなくてBの方を使いなさい」
こんなものあっていいのだろうかと思ったけれど、こんなものをオレなんかに託すってことは。
「……本当に、オレしかあいつを助けられないってことですか」
「彼女だけではないわ。彼女を助けることで、恐らく世界中の人が助かる」
「そ、そんな大規模……?」
「憶測に過ぎないけれどね。逆に言えば、もし彼女を救えなかったら、たくさんの人に被害が及ぶかもしれないということだ」
「(……ハナ。君は一体……)」
「その中には、もしかしたら敵も入っているかもしれない」
「……!!」
ザッと電話帳を開いて見てみる。そこには見知った人もいたり、全く聞いたことのない人もいたりした。
「……それは、オレがきちんと判断します」
「ああ、そうしておくれ」
オレの強い瞳に、理事長は嬉しそうに目を細めた。
「私が君に連絡を入れられなかったのは、結構本当に重症だったからなの」
「え。……っ、すみません」
「ううん。あなたは命の恩人よ? それにみんなも。だから気に病むことはないし、あなたのおかげで向こうから接触してきてくれた。無事にあそこに潜り込むことができたから万々歳だわ?」
「……でも……」
「……正直言うと、生死を彷徨っていたのは事実なの」
「……!!」
「でもね? 理事長がありとあらゆる伝を使ってくれて、とっても腕のいいお医者様が、命を救ってくれたわ」
「…………」
「だから、……理事長にも感謝しています。ありがとうございました」
「私は、君がそんな状態だったっていうのを知ってから手配したまでだ。君のような人を亡くすのは。……もう、嫌だからね」
「(理事長……?)」
どこか寂しそうな顔を一瞬だけした彼は、さっと元の顔に戻す。
「今日はもう遅い。送ってはいけないから、気をつけて帰りなさい」
「え。まだ聞きたいことが……」
「彼女のことについては、彼女から直接聞くんだろう?」
「いえ、理事長と先生に話が」
オレがそう言ったら、二人はきょとんとした。
「まず、理事長はどうやって調べたんですか? あいつのこと」
「ん? だって海棠だし、ありとあらゆる伝を使ってね? だから多分、その中に敵はいないと思う。大丈夫だと思うし、間違ってもいないと思うよ?」
「(海棠グループ、こっわ……)」
「私はそれぐらいかな?」
「まあ、あとで二人同時に聞きます」
「「??」」
「先生はお母様の仕事を引き継いで、考えが混じった上でその任を引き継いでいるんですよね」
「……まあ、その頃は彼女に直接接触してないから」
「今は接触してるんですか」
「……今、私のあそこでの仕事は彼女の監視と、物の搬入よ」
「……!! ……まあ、それはしょうがないことか。あいつ、笑ってますか?」
「……? そうね。専属の執事がついたみたいで、彼といる時は、笑ってるかしら」
「……そう、ですか」
「九条くん?」
「あ。いえ。何でもないです。……元気なら、オレはそれでいいんで」
オレは冷め切ってしまったコーヒーを一気に飲み干して、二人に視線を向ける。



