すべてはあの花のために❽


「……元気そうで、よかった。先生……」

「つらい仕事をさせてしまったわね」

「それはいいんですけど、理事長とかに聞いたらよかったじゃないですか、オレの番号」

「何言ってるの。人の個人情報をそうほいほい聞いたらいけないでしょ!」

「それをさっさとオレに渡したの誰ですか……」

「それはそれ、これはこれよ!」


 まあそれは確かに。それとして置いておくとして。


「……犠牲者って、なんですか」

「え?」


【犠牲者:事件や事故により、生命を失うなどの重大な損害を受けた人】


「オレが聞いている意味わかってますよね。ちゃんと答えて」

「日向くん」


 その時、理事長の鋭い声が間を割って入ってくる。


「……なんですか」

「そのことはほいほい言っていいことじゃない。それにこれは、約束だから」

「(……そんなの。もう……)」


 ハルナを殺したのが、もしハナのせいなら。オレは犠牲者であり被害者だ。
 あの家にいるハナがしたっていうのなら、家はその犠牲者を手込めにすることができる。


「(その状況にして、わざと先生はあそこに潜り込んだってことじゃん……)」


 オレが何となく予想したのがわかったのか、二人は苦しそうな顔をしていた。


「……そうですね。これはほいほい聞いちゃいけない」

「日向くん……」

「それにオレは、あいつの口から聞かないと信じないので。あなた方にあいつのことを話されても信じません」

「はは。……うん。それでいいよ。人をそう易々と信じられない時代だからね」

「あなたも相変わらずね。……でも、前よりもしっかりしている」


 嬉しそうに二人は目を細めるけど、まだ話は終わってないですから。


「理事長は、あいつの名字以外のことは知ってるんですよね」

「そうだね。彼女自身のことは、編入の時につらそうに話すのを聞いたから。まあその前に雨宮先生に聞いてたから、きちんと把握してるよ」

「私も、理事長から彼女のことは聞いてるから、あとは名字だけね」

「先生は、あいつから直接聞いてないのに信じるんですか」

「でも、流石に方法が……」

「でも、人を入れたら間違って覚えてるかもしれないし、違った解釈になったりする。その人の考えも混じる。……先生はそれで、ちゃんと公安としての立場で判断できるんですか!」


 オレがそう言ったら、二人とも目を見開いて驚いている。
 なんだっ。間違ったこと言ったつもりなんか全然ない。


「……じゃあ、君ならどうする?」

「え? ……オレですか?」

「そうだね。日向くんは、どうしたらきちんとした情報を相手に伝えられると思う?」

「え? 話聞けばいいじゃないですか」

「それができれば苦労はしないのよ……」

「それにあの子は話をするのが苦しそうだった。……きっともう、誰にも話したくなどないだろう」

「だったら、盗み聞きしたらいいじゃないですか」