その電話はすぐ終わったようだ。
「……そうか」
「……理事長は、何かあいつのことを知らないんですか」
「そうだね。知っているよ。たった一つを除いては」
「……あいつの名前、ですか」
オレがそう言うと、理事長は目を見開いたあと小さく笑った。
「……他には? 君が知っていることを教えて欲しい」
「オレは、理事長を信じてます」
「………………」
「これであいつの家と実は繋がってたとかだったら、オレ多分、理事長を殺しますよ」
「はは! そうかそうか!」
「笑い事じゃないんですけど……」
「大丈夫だ。それは保証しよう。私は君の味方であり、彼女の味方だ。……道明寺などの味方などに、なって堪るものか」
「……オレが知ってるのは、さっきも言いましたけど、あいつが異常って理由で本当の両親に捨てられたこと」
「そうだね。それは本当につらいことだ」
「それから、……あいつの中に、もう一人棲んでいること」
「……!!」
「あれ? 理事長は知らなかったですか?」
「いや、君がそこまで知っていることに驚いているんだ」
理事長は本当に驚いているようで、目を丸くしていた。
「オレが知ってるのは、あいつを育ててくれた人のところへ、話を聞きに行ったからです」
「え……!?」
「……? 何かおかしいですか?」
「……それは、花咲さんのことだね。なんで君が知っているのかな」
「昔、あいつに絵本をもらったんです」
「……そうか。やっぱり君の方だったんだな」
「え?」
「いや、続けて?」
「そこに、いろいろあいつから助けてくれってメッセージが書かれてて。あの人たちの住所も、出てきたんです」
「……だから君は、彼らのところへ行ったと」
「はい。ヒイノさんたちも、あいつのことを心配してました。でも、道明寺にあいつを人質に取られてるみたいで動けないって。……名前を探してやりたいけど、難しいからあいつが信用したオレのことを信じてくれて、いろいろ教えてくれたんです」
「………………」
「でも、オレには調べようと思っても所詮人に聞いたり、ネット上に載ってる情報だけです。それが嘘なのか本当なのかすらわからないし、殆ど行き詰まってて。あいつの名前が、ちゃんとわからなくて……」
「ちゃんとと言うことは、少しは知っているのかな」
「下の名前は葵です。本人が言ってたみたいなので(まあさっきあいつも言ってたけど)」
「………………」
「もう一人のあいつに取られたのは名字。その名字をあいつは『顔を出したお日様』って言ってたらしいです」
「顔を出したお日様……」
「あとは、あいつが描いた絵……って言っても、ヒイノさんが頑張って解読したらしいんですけど、それを戴いてきました」
「……今、それは持ってるのかな」
「あれだったら描きますよ、簡単だし」
そう言って、全く同じものをオレは描いて理事長に渡してあげた。
「……これが、彼女の名前……」
「あと、これはヒイノさんの推測と、さっきあいつが言ってたことを合わせて、やっぱりそうなんじゃないかと思ったんですけど」
「え? 話をしたの?」
「いえ盗み聞きで」
「そんなあっさり……」
「……あいつが言ってたんです。『オレを殺してごめんなさい』『守れなくってごめんなさい』って」
「…………」
「多分ですけど、あいつもどこかでハルナが死んだのを知ったんだと思うんです。でもあいつは『自分のせいで』って言ってたんです」
「…………」
「あいつが悪い事なんて一つもない。全部、……オレのせいなんだから」
「それは違う。日向くんが悪いわけないじゃないか」
「そう言ってくださってありがとうございます。でも、オレがこう思ってることを変えることはないんで」
「……それはっ……」
「もし仮にオレが悪くなくて、あいつがハルナを……いえ、オレを殺したとしても。オレはあいつのこと嫌いになんてならないですし、助けてやりたいって気持ちは変わりません」
「日向くん……」



