すべてはあの花のために❽


 そう言ったっきり、理事長室には無言が続いた。


「え? ……あ、あの、理事長……?」


 ……なんだろう。目の前の彼は、すべての穴という穴を広げきって、唖然としているようだった。


「(……え。オレ、別に変なことは言ってないよね……?)」


 あ、でも理事長は知らないって可能性があるか。なんであいつを助けないといけないのかとか。


「(それだったらオレ、完全に人選ミスったかもしれない……)」


 そう思っていたら、いきなり理事長がオレの肩を思い切り掴んだ。


「君って実は女の子なの!?」

「そんなわけないでしょ。何年一緒にいると思ってるんですか。ウジ湧いてんですか。バカですかあなた」


 唐突にそんな失礼なことを言われた。


「(まさか、オレが家で女の服着させられたりしてるとか。そんなのがバレたわけじゃないよね……?)」

「すまないすまない。言い方を間違えてしまった。ははは」


 そう言いながら笑い出したんだけど。マジ失礼。帰ろうかな。
 腰を上げようとしたら、思い切り腕を掴まれて戻された。


「ごめんごめん。……ちゃんと、君の話を聞かせてくれるかな」

「……?」


 なんだろう。さっきの雰囲気から一転、なんだかやわらかくなったような……。


「大人も警察も、今は信じられません」

「うん。そうだね」

「え?」

「続けて?」


 どうしてこうも、彼はやさしい声でオレを促すのだろう。


「……オレがまだ小学生だった頃、ある女の子に会ったんです。それから仲良くなったんですけど、……もうここ何年かは会ってなくて」

「………………」

「その子に、助けてって言われたんです。あ、でも直接言われたわけじゃないからな……。でも、助けてあげないといけないんです。あの家から」

「……それがその、道明寺葵さんだというのかい」

「理事長は、多分知ってるんじゃないかと思うんですけど……」

「何をかな?」

「……あいつ、本当の親に捨てられたんです。次の家に拾ってもらって、……よくしてもらってたみたいなんですけど、今の家に計画的に連れて行かれたみたいで」

「…………」

「それに。あいつにはもう、時間がないから……」


 オレがそう言うと、理事長はいきなり立ち上がってどこかへ電話を入れた。……話の途中でとか本当失礼。