すべてはあの花のために❽


「(明かりはまだ点いてたから……)」


 コンコンと、その大きな無駄に豪華な扉を叩く。


「誰だい? まだ誰か残って……」

「理事長。今すぐお話ししたいことがあるんです」


 あのあとすぐ学校に戻ってきたオレは、急いで理事長室へ向かった。


「え? どうしたの日向くんまで……」

「……誰か来てたんですか?」


 取り敢えず中に案内され、コーヒーをいただく。


「さっきまで桜李が来てたんだ」

「オウリが? なんでまた」


 オレがそう言うと、理事長が嬉しそうに頬を緩ませる。


「友達になりたい子ができたんだって、そう言っていたよ」

「え。……ほんと、ですか……?」


 オレらとは仲が良かったものの、オウリは誰にも心は許すことはなかったし、ましてや友達だなんて以ての外だ。


「(……一体誰のことを……)」

「その子の綺麗な技裁きに見惚れたらしくてね」

「え……」


 嫌な予感しかしない。


「さっき私も動画をもらったんだけどね~」


 そう言って楽しげに理事長はオレにスマホを見せてくるけど……。


「(それ、オレ発信……)」

「めっちゃくちゃ面白かったから、PCにもバックアップとっちゃった!」

「(あー……ごめんハナ。余計なことした)」


 まあ取っておきたかったし、オレが撮ったことは間違いではない、うん。


「それで? 君はどうしてここへ来たのかな?」


 がらりと先程までの空気が変わる。


「……理事長に、聞きたいことがあるんです」


 中学まではいなかったはずだ。オレの学年はもちろん、ツバサの卒アルを見せてもらったことがあるけど、そんな名前も写真も載ってはいなかった。


「あなたなら何か知っているんじゃないかと思って伺います」


 でもあいつは、間違いなく桜の制服を着ていた。だったら、少なからず編入はしてきているはず。……その編入には必ず、理事長が関わっている。


「『道明寺 葵』という人物について、洗い浚い知ってることを教えてください」


 オレがそう言うと理事長は眉を寄せ、少し睨んだ感じでオレのことを見てくる。


「……どうして彼女のことを知りたがるのかな」


 鋭い雰囲気のまま、理事長はオレにそう問うてくる。でも、オレも負けてなんかいられないんだ。


「オレは、あいつを助けてやらなきゃいけないんです」


 ……ただ一人。助けを求めてくれたオレが、あいつを助けないといけないんだ。