すべてはあの花のために❽


 去って行ったハナの背中が見えなくなるまで、木の陰に隠れてたオレはゆっくりと立ち上がる。


「……月、か……」


 あの頃のオレにはもう戻れない。太陽はもう。空の上だ。


「……月にも、なれないかもしれないけど」


 まわりには、ただ暗闇しかない世界。ぽつんと一人、暗闇に浮かぶ明るく照らすことができない月。


「……見えない、陰からでいい。こんなオレ、ハナには見えなくていい」


 だから。ほんの少しでいい。彼女の手助けに、なれるように。


「君が幸せな姿を。……陰で見守ってるよ。ハナ」


 どうか。この汚れている汚いオレを。見つけないで。