推しは王子様だけど、恋したのは隣の君でした

 凜花とステラノーツのメンバーは、カジュアルなファミレスにいた。

「お疲れ」

 朝陽が言い、バンドのメンバーがそれぞれ自分の飲み物を軽く持ち上げる。

「今日も、みんな楽しんでくれたようでよかったね」

 野々花が満足そうに言う。

「ところで、前から話してる今後の方向性なんだけど」

 朝陽が切り出す。

「バラードとか、もっとエモい曲も取り入れるかどうかって話だろ」

 翔がテーブルに肘をつきながら応じる。

「ポップで明るいのがこのバンドの個性だし、みんなもそれを期待してるところあるからなあ」

 淳司が大きく腕を組みながら言う。

「でも、ライブのバリエーション増やすのもアリじゃない?」

 野々花が軽く翔を見ながら言うと、翔は「ま、それも考えどころか」と頷く。

 ――朝陽がこのバンドをまとめてるんだね……。

 凜花は、バンドメンバーの会話を聞きながら、朝陽がみんなから自然と信頼されていることを実感する。

「俺たちの演奏、凜花も楽しんでくれた?」

 かやの外になっていた凜花を気にかけるように、朝陽が笑顔で話を振ってきた。

 ――正直言って、超高校級バンド「桜影」と比べると、高校生らしいバンドだ。でも、それはそれでいい。

「楽しかったよ。力を抜いて聴ける、親しみやすいサウンドだった」

「さすが凜花さん、耳が肥えてるね」

 晃がぼそっと言う。

 ――あれ? 私、何かまずいこと言った?

「凜花も楽しんでくれたようでよかった」

 朝陽が明るく言う。その言葉に、凜花はほっとする。

 ――朝陽、フォローしてくれてる?

   ◇◇

 ファミレスを出た帰り道。

 夜風が少し涼しく感じる。並んで歩く朝陽が、ふと前を見つめながら口を開いた。

「なんか、ちゃんと話したいな」

「えっ?」

 ――これって、デートの誘い?

 心臓が軽く跳ねるのを感じながら、凜花は朝陽の横顔を見た。

「いや、こうしてライブのあとに話すの、楽しいなって思ってさ」

 朝陽は、いつもの軽い口調で言う。でも、その横顔はどこか真剣に見えた。

「夏休みも、どこかで会えたらいいな」

「え……?」

「そういえばさ、浴衣とか似合いそうだけど」

 不意にそんなことを言われ、凜花は一瞬思考が止まる。

「……浴衣?」

「うん、夏祭りとか行ったりするのかなって」

 さらっと言われたのに、なぜか胸がざわつく。まるで「一緒に行こう」と言われているようで、どう返事をすればいいのか迷う。

「そんなに行ったことないけど……」

「じゃあ、一緒に行く?」

 朝陽の口調は軽い。でも、ふざけているわけでもなさそうだった。

「……考えておく」

 そう答えるのがやっとだった。

 朝陽は「お、いいね」と笑い、歩き出す。

 ――これって、誘われてるんだよね?