推しは王子様だけど、恋したのは隣の君でした

 凜花が自室に戻り、スマホを開くと朝陽からのメッセージが届いていた。

「7月最初の土曜日、ステラノーツのライブがあるよ。今度こそ招待させて」

 ――招待なんて、気をつかわなくても……。

 「桜影」と「ステラノーツ」、二つのライブに行くことになる。その負担を朝陽が気にしてくれているのだと気づき、胸が温かくなった。なんて、自然に気配りのできる人なのだろう。

「ありがとう」

 せっかくの心遣いだ。今回は素直に招待を受けることにした。

   ◇◇

 ライブ当日。凜花が受付で「篠原凜花です。ステラノーツからの招待で」と告げると、スタッフが名簿を確認し、「どうぞ」と入れてくれた。

 ライブハウスには何度も足を運んでいるが、招待で入るのは初めての経験だった。少しそわそわしながらも、ステージの前へと向かう。

 「ステラノーツ」のステージが始まる。

 彼らの音楽は、明るくポップで観客を自然と楽しませる。会場には創星学園の生徒が多いのだろう。曲が終わるたびに「朝陽!」「翔!」「野々花!」とメンバーの名前が飛び交う。

 特に朝陽への声援はひときわ大きい。黄色い声が飛び交い、その人気ぶりに改めて驚かされる。

 ライブが終わり、すべてのバンドの演奏が終了した。

 凜花は余韻を噛みしめながら出口へ向かおうとしたが、その途中で「ステラノーツ」のメンバーが集まっているのを見つけた。

 朝陽がこちらに歩み寄る。

「これから打ち上げに行くんだけど、凜花も来る?」

 ――打ち上げって、バンドメンバーだけでやるものじゃ……?

 不意の誘いに、凜花は思わず固まってしまう。

「いいじゃん。せっかくだし」

 キーボードの野々花が明るく笑う。

「怖くないって」

 ドラムの淳司が言う。その言葉に、凜花は思わず眉をひそめる。

 ――別に怖いなんて思ってないけど?

 大柄な淳司は、自分が怖がられていると思っているのだろうか。

 その勘違いがなんだか可笑しくて、凜花は思わず笑顔になった。