その夜、凜花はベッドに入り、天井を見つめながら、演奏後に凜花の前に現れた創星学園の女子生徒の姿を思い出していた。彼女はきっと朝陽のファンなのだろう。

 ――私も、かつては同じだった。

 真琴先輩の彼氏、遼さんに冷たい言葉をぶつけたあの日。彼女の気持ちがわかるからこそ、胸が痛む。

 真琴先輩を取られた気がして、ただやり場のない感情をぶつけた。だけど、真琴先輩は奪われたわけじゃない。幸せを見つけたんだ。

 私は本当に、真琴先輩の幸せを願えていたの?

 今なら、もう少し違う気持ちで向き合える気がする。

 そんなことを考えていると、ますます眠れなくなったが、天井を見つめているうちに、自然に目を閉じ眠っていた。

    ◇◇

 週明け、凜花と遥香はカフェテリアでランチをしていた。

 「凜花、創星学園の学園祭、どうだった? 東城君たちの演奏も見たんでしょ?」

 遥香がフォークをくるくると回しながら聞いてきた。

 「うん。楽しかったよ。けど……」

 「けど?」

 遥香が顔を上げる。

 「朝陽のファンらしい子に、『朝陽をたぶらかした女』って言われたの」

 遥香の手が止まる。

 「私も、前に遼さんに『真琴先輩を返して』って言っちゃったことがあるから、気持ちはわかるの。でも……どうしたらいいんだろう」

 遥香はしばらく考えてから、ゆっくり口を開いた。

 「今はファンも混乱してる時期だから、少し時間を置けば落ち着くかもよ」

 「でも、私も真琴先輩が卒業した後まで引きずってたし……」

 「うーん……でもさ、結局これは凜花と東城くんの問題でしょ?東城くんがどうしたいかにもよるし、凜花が気にしすぎてもしょうがないよ」

 遥香は肩をすくめながら、軽く微笑む。

 「……そうだよね。ありがとう。自分でもちゃんと考えてみる」

 凜花は小さく息を吐く。少しだけ気持ちが軽くなった気がした。