推しは王子様だけど、恋したのは隣の君でした

 篠原凜花は、教室の窓際の席に座り、ぼんやりと校庭を眺めていた。

 桜の花びらが風に舞う。春の訪れを感じさせる穏やかな景色なのに、心は晴れなかった。

 ――王子様は、もういない。

 彼女が愛してやまなかった「桜影」のリーダー、如月真琴。ドラムを叩く姿は凛々しく、ステージの上では誰よりも輝いていた。イケメンアイドルのようなビジュアルと、その王子様のような立ち振る舞い。すべてが眩しくて、憧れだった。

 だが、今の真琴は“普通の女の子”だ。

 舞台の上では相変わらず王子様のようにかっこいい。でも、舞台を降りたら、もう自分の手の届かない人になってしまった。

 真琴が恋をしたのは、高学歴の大学生。大人で、かっこよくて、たぶん自分とは住む世界が違う人。

 ――勝てるわけ、ないよね。

 それでも、諦めることなんてできなかった。

 卒業ライブの日、凜花は誰よりも声を張り上げ、誰よりも「桜影」の最後のステージを盛り上げた。

 けれど、心の中では泣いていた。

 そして、季節は巡る。

 真琴たち「桜影」のメンバーは卒業し、学校からいなくなった。

 凜花の心には、ぽっかりと穴が空いたままだった。