すべてはあの花のために⑦

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「おはようござ……って。あおいさん、またシャワー浴びたんですか。また寝てないんですか」

「あ。おはようレンくん」


 今はもう眠ってしまったら、日が昇って沈むまで『葵』には戻れない。『赤』が、かなり侵食したからだ。
 だから、一度起きたら、葵はもう寝ない日を続けていた。それに……もうあと三日だ。寝るなんて勿体ないことはしない。


「はあ。……髪、乾かしてくださいよ。いい加減」

「きっとレンくんが乾かしてくれると思って。わたしの付き人さんだし?」


 なんだかんだ、彼はいろんなところで助けてくれてたりする。
 そんな彼の会社を潰したのも、葵だった。今も殺したくてたまらないだろうに、家からの命令で、彼は葵を殺すことを許されないでいる。


「はいはい。そこ座ってください。風邪引いたらどうするんですか」

「すみませーん」


 なんだかんだで心配をしてくれる、よくわからない人物だ。でも、やっぱり嫌いなんだろうなっていうのはわかる。
 時々視線が鋭かったり、髪を乾かすのに乗じて、思い切り髪の毛を引っ張ってくるから。


「痛いっ! レンくん禿げる!」

「いっそのこと禿げたらちょうどよくなるんじゃないですか」

「何がっ!?」


 こんな会話もしょっちゅうだ。


「……あ。お花がある」


 ふと窓際を見ると、白い雪のような花が咲いていた。


「ああこれですか。これは、あなたに。私たちから贈り物ですよ」

「え!? そうなの!? 心境の変化!?」

「そんなわけないでしょう。とても素晴らしい花言葉だったので、これを選んだんですよ」

「え? どんな花言葉なの?」


 レンはドライヤーを一旦止め、小さく微笑みながら話した。


「スノードロップの花言葉は、『逆境の中の希望』や『友情』などがあるんです」

「え!? 今のわたしにぴったりじゃん!」

「しかも、季節外れでなかなか手に入らないので、大事に育ててくださいね? 暇でしょうどうせ」

「うん! 大事に育てるっ!」


 相変わらず皮肉が通じないと、レンは肩を落とす。けれどそのあとすぐ、彼はにやりと嗤った。


「でも、この花は贈り物にすると、意味が変わってくるそうなんですよ」

「え。そんなのがあるの?」

「はい。それは――――」

「……!!」


 耳元でレンが囁いた言葉に、葵は固まる。


「早くそうなってくれることをみんなで祈ってますよ?」

「………………っ」


 また髪を乾かし始める愉しげなレン。葵はただ、膝の上で握り拳を作った。



『贈り物のスノードロップの意味は【あなたの死を望みます】なので』


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