すべてはあの花のために⑦


 ……ビキ。
 そしてまた、耳の奥で心にひびが入る音がする。

「(……うそ、だ……)」


 ビキ。……ビキ。


「(だってもう。しないって言ってたのに。……ごめんって。そう、言ってたのに……)」


 ビキ。


「(……もう。誰も信じられな――)」


『う、うるさいな! そもそも君がそんなことするはずないでしょう!』

『は? バカじゃないの。何を根拠にそんなこと言ってるんだか』


「(……。ひなた。くん……)」


『ただ、わたしが勝手に信じたいだけ。そんなことするような人じゃないって。……もし本当にそうだったとしても、きっと何かわけがあるんじゃないかなって、そう思う。でも人様に迷惑掛けちゃいけないよ。やるならわたしだけにしてね。みんなには迷惑掛けたくないからさ』

『……なんで』

『ん? だって君、前科があるし?』


「(……そうだよ。誰よりも他人思いな彼だもの)」


『……ありがと』

『え……?』

『……信じて、くれて』

『(ひなたくん……)』


「(……あの時。本当に嬉しそうだった。信じてるって言った時。彼はわたしにお礼を言ったんだ)」


『あんたのこと、オレも信じてるから。だからあんたも、オレのこと、オレらのこと信じてよ』


「(信じてる。……信じてるよ。わたしの、大切なお友達だもん)」


 バレてしまったものはどうしようもない。全身全霊を掛けて、みんなを守るだけだ!



「……どう。したら……」

「……なんですか?」


 目の前で、アイが首を傾げた。


「どうしたら。彼らに手を出さないでもらえるでしょうか」


 腹の底から怒りを込めて、アイの向こうの義父に問う。


「いい判断だな。そこは流石と言うべきか」

「彼らにも手を出さないと約束してください。わたしはなんでもします。……お願いしますっ」


 葵は土下座をして懇願する。


「……ま、条件はあるにはあるが」

「それをします。必ずします。彼らにも指一本、手は出さないと約束してください……!」


 床に額を擦りつける勢いで、葵は願った。


「……よくもまあ、お前なんかと友人関係になったものだな」

「ホントよね~。あたしだったら、ぜーったいに無理っ! 最低だしい? 殺してやりたいもの」


 ……そんなの。自分が一番わかってる。最低で。罰当たりな奴だ。
 でも、そんな自分のことを、嫌わないでいてくれるみんながいるんだ。何より、大切なんだっ。彼らも!


「“家族を崩壊させた張本人”が友人など、知ったら最後。……殺されてしまうかもしれないな」


 にやり。アザミが不気味な笑みを零す。


「そうね~。あたしの娘がいなくなるのは困っちゃうから、たとえ“みんなのことを傷つけた張本人”でも、生かしておかないとー」


 にたり。エリカも嬉しそうに、愉しそうに嘲笑ってくる。
 そのまわりのコズエもカオルもレンも、目の前のアイも、馬鹿にしたような笑みを浮かべていた。


「(わかってる。もう。十分、……わかってる)」


 許されるなんて思ってない。だから、必死に隠してきたんだ。絶対に嫌われると思ってるから。


「(……それでもどこか、みんななら……って思ってしまう)」


 そんなわけ。ないのに。自分だって、そんなことをしてきた奴がいたら絶対に許しはしない。
 ……だからシントに、その矛盾を託したんだ。

 嫌われたくない。でも。わかって欲しいって。
 ……わかってくれなくても。もう。十分すぎるほど。みんなには良くしてもらった。


「(今度はわたしが返す番! もう傷つけるもんか! 守ってやる! 何がなんでも!! 大好きなみんなも!)」


 葵の拳は、怒りや決意、悔しさに震えていた――――。