……ビキ。
そしてまた、耳の奥で心にひびが入る音がする。
「(……うそ、だ……)」
ビキ。……ビキ。
「(だってもう。しないって言ってたのに。……ごめんって。そう、言ってたのに……)」
ビキ。
「(……もう。誰も信じられな――)」
『う、うるさいな! そもそも君がそんなことするはずないでしょう!』
『は? バカじゃないの。何を根拠にそんなこと言ってるんだか』
「(……。ひなた。くん……)」
『ただ、わたしが勝手に信じたいだけ。そんなことするような人じゃないって。……もし本当にそうだったとしても、きっと何かわけがあるんじゃないかなって、そう思う。でも人様に迷惑掛けちゃいけないよ。やるならわたしだけにしてね。みんなには迷惑掛けたくないからさ』
『……なんで』
『ん? だって君、前科があるし?』
「(……そうだよ。誰よりも他人思いな彼だもの)」
『……ありがと』
『え……?』
『……信じて、くれて』
『(ひなたくん……)』
「(……あの時。本当に嬉しそうだった。信じてるって言った時。彼はわたしにお礼を言ったんだ)」
『あんたのこと、オレも信じてるから。だからあんたも、オレのこと、オレらのこと信じてよ』
「(信じてる。……信じてるよ。わたしの、大切なお友達だもん)」
バレてしまったものはどうしようもない。全身全霊を掛けて、みんなを守るだけだ!
「……どう。したら……」
「……なんですか?」
目の前で、アイが首を傾げた。
「どうしたら。彼らに手を出さないでもらえるでしょうか」
腹の底から怒りを込めて、アイの向こうの義父に問う。
「いい判断だな。そこは流石と言うべきか」
「彼らにも手を出さないと約束してください。わたしはなんでもします。……お願いしますっ」
葵は土下座をして懇願する。
「……ま、条件はあるにはあるが」
「それをします。必ずします。彼らにも指一本、手は出さないと約束してください……!」
床に額を擦りつける勢いで、葵は願った。
「……よくもまあ、お前なんかと友人関係になったものだな」
「ホントよね~。あたしだったら、ぜーったいに無理っ! 最低だしい? 殺してやりたいもの」
……そんなの。自分が一番わかってる。最低で。罰当たりな奴だ。
でも、そんな自分のことを、嫌わないでいてくれるみんながいるんだ。何より、大切なんだっ。彼らも!
「“家族を崩壊させた張本人”が友人など、知ったら最後。……殺されてしまうかもしれないな」
にやり。アザミが不気味な笑みを零す。
「そうね~。あたしの娘がいなくなるのは困っちゃうから、たとえ“みんなのことを傷つけた張本人”でも、生かしておかないとー」
にたり。エリカも嬉しそうに、愉しそうに嘲笑ってくる。
そのまわりのコズエもカオルもレンも、目の前のアイも、馬鹿にしたような笑みを浮かべていた。
「(わかってる。もう。十分、……わかってる)」
許されるなんて思ってない。だから、必死に隠してきたんだ。絶対に嫌われると思ってるから。
「(……それでもどこか、みんななら……って思ってしまう)」
そんなわけ。ないのに。自分だって、そんなことをしてきた奴がいたら絶対に許しはしない。
……だからシントに、その矛盾を託したんだ。
嫌われたくない。でも。わかって欲しいって。
……わかってくれなくても。もう。十分すぎるほど。みんなには良くしてもらった。
「(今度はわたしが返す番! もう傷つけるもんか! 守ってやる! 何がなんでも!! 大好きなみんなも!)」
葵の拳は、怒りや決意、悔しさに震えていた――――。



