「あと、お前に朗報だ」
アザミは薄笑いを浮かべながら、へたり込んだ葵の顎を掴んでグイッと持ち上げる。
「残念ながら、お前の行動など筒抜けだ」
「……。え……」
「バレてないとでも思ったか。お前が皇との婚約を破棄しようとしてたことなど、とっくの昔にお見通しだ」
クスクスと。ニヤニヤと。その場の全員が葵を馬鹿にしたように嗤っている。
「……。な、んで……」
「わお! ほんとにこの子は馬鹿なのね! 早く消えてくれない? 目障りなんだけどー」
エリカが、その辺にあったゴミ箱を葵の上でひっくり返してくる。
「それはね? 私たちが報告してたからよん」
「……。え……」
「あれ~? 道明寺さんはあ、思い当たったことって、ないですかあ?」
「……。な、にを……」
アイが、葵の上に乗っかったゴミ屑を、丁寧に払い落としてくれる。
「俺たちが、あなたの行動の監視をしていた、ということです」
「……な、なにが、『ということ』なんですか」
「あれ? 監視してたのは、気がついてないんです?」
「……つけられてるな、とは。思いました。それがあなた方なのでしょう」
「物わかりがよくて助かります」と、アイは葵の頭を撫でてくる。
「大体つけていたのはコズエさんとカオルですね。俺は文化祭の時お邪魔しましたけど」
「え。……あ、あの。先生は。つい最近まで眠っていたんじゃ……そうか。そうしておけば先生だとは、誰も気づかないってことですね」
「ご名答~。さっすが道明寺さん。ちなみにですが、体育祭の時の資料を処分したのはぼくじゃなくてレンくんなのでえ。お間違いなく?」
「え」
「生徒以外は立ち入り禁止なんですから、校内に裏切り者がいるに決まってるじゃないですか」
「(……クリスマスパーティーは。ヒナタくんがしたって言ったけど……)」
葵が何を考えているのかわかったのか、レンはにやりと。見たことがない嗤い方をした。
「九条にもいろいろと手伝ってもらいました。ポスターを破っている横で赤い封筒を準備してもらったり、前日の準備で屋根を開けてもらったり。当日に、ちょうどいいタイミングで照明を落としてもらったり。……ほんと、よく動いてくれます。いい道具ですね彼も」
そんなことを言う目の前の彼が信じられなくて、葵は掌をぐっと握り締める。
「(……だいじょうぶ。ヒナタくんはもうしないって言ってた。……信じろ。大丈夫。わけがあったんだ)」
「残念だけど、九条くんからはクリスマスパーティー後もちょくちょく連絡は来たわよ?」
「え……」
葵の考えていることなど筒抜けなのか。コズエが、指を一本立ててにやっと嗤っていた。
「お友達に嫌われずに済んだのでしょう? 異常な自分のこと、受け入れてもらえたみたいでよかったわ?」
「……!!」
だ、だめだ。この人たちの前で。そんなこと言ったら……っ。
「とおっても喜ばしいことにい。アザミさんもエリカさんも、あなたが彼らとお友達だということは、もうご存じでえーす」
……そ、んな。シントの前でだって。気をつけていたのに。
「どこで気をつけていようとも、ふとした瞬間仮面が外れていらっしゃるんですよ」
「……え」
という、ことは……。
「お察しの通り、私の方から主に皆さんへお伝えさせていただいています。まあそれだけではなく、九条の方からいろいろ連絡が来ているので、私が報告するまでもなかったですが」
葵は、ガクッと項垂れた。



