「……すぐ、見つかると思っていたんだ」
コンと、指先でカップを弾くシントの表情は……ふっとやわらかい表情になる。
「そんな俺を拾ってくれたのが、葵なんだ」
肘をつきながら、静かに揺れるコーヒーを見つめているシントを、みんなはただ、静かに見守っていた。
「一目惚れだった」
――どんがらがっしゃん!
頬を赤らめたシントに、みんなは椅子から転げ落ちた。
「し、シン兄……」
「シントさん。それ、今別にいらないっす……」
「え? みんなが知りたかったのは、俺がいつ葵のこと好きになったのかじゃないの?」
みんなは「違いますっ!」と、思い切り睨み付けながら突っ込んだ。
「冗談だし。お茶目じゃん。そんな怒んないでよ」
「なんでしーくんはそんなに冷静なの!」
「しーくん!? ていうか桜李くん! 電話ではどーも?」
「もっと思いっきり叩いておけばよかったと思ってますっ」
「いやいや、鼓膜破れるかと思ったから……」
ぷんぷんっと効果音が付きそうな表情で、オウリは腕を組んでいた。
「声は出るようになったって聞いてたのに、俺のとこには来なかったんだね」
「……タイミングが悪かっただけです」
「じゃあそういうことにしておいてあげるよ」
あの頃はまだ、彼は声が出なかった。でも今、こうして表情豊かに、しかも怒っている表情が見られるなんて。……到底言葉にできるわけもない。
彼の声が出るようになったんだと教えてもらった時の、彼女の笑顔を目蓋の裏に映し、ゆっくりと瞳を開いたシントはまた話を続けた。
「『わたしの執事に、なってくれませんか』って。……可愛くて美人で、なのにどこか苦しそうで儚げなあいつを、俺は放っておけなかったから、執事になることにした」
「それって、単にアオイちゃんに惚れただけじゃ……」
「うん。まあ否定はしないよねー」
「しんとサン……」
いや、見せてあげたい。ほんと、めちゃくちゃ可愛いんだから。……あ。でも、自分だけ知ってる優越感も……うん。それもいいかも。
シントは、ごほんと一つ咳払いをした後、話を戻すことに。
「それから俺は、道明寺に雇われて、葵の専属の執事として家の仕事をしながらあいつの世話もしてきた。そういう経緯だったんだけど、杜真くんOK?」
「葵ちゃんは、信人さんが『皇信人』だということは知らなかったんですよね」
「そうだね」
「……俺がしたことは、間違いだったでしょうか」
珍しいことに、トーマの瞳が揺れる。そんな彼に、みんなも驚いて目を見開いていた。
「どうして? 君が葵の手札を増やしてくれたから、葵は俺にたどり着けたわけだし、アキも耳が綺麗になったんだ。……君は葵から『教えてくれ』と言われなかったけど、『願い』の範囲でちゃんとそれをこなしてくれた。だからお礼を言うべきだよ。ありがとう杜真くん」



