「……あっちゃん」
キサは、葵の目の前で小さく話しかける。
「……あいつと、話せなかったの……?」
「…………」
「何も? 一言も話さなかった? 何もしなかった?」
キサがそう尋ねると、葵の頬がほんのりピンクに染まった。
「(え。あっちゃん……?)」
「……と、特にはっ……」
「(いや、何したんだ弟よ……)」
パタパタと、ヒナタに見えないように自分の顔を冷まそうとしている葵が、めちゃくちゃ可愛く見えた。
「もう! あっちゃんかわいい!」
「……!?!?」
そう言いながら、キサは葵の顔を隠すようにして抱き締める。
「……話せたんならよかった」
「……きさ、ちゃん」
「いい思い出、できた?」
「……。っ、いい、思い出かどうかは。わかんないけど……」
「そっかそっか。でも話せたんならよかった。……もう、話さない?」
「……うん」
「わかった。でも何か言うかもしれないから、声だけ聞いてやって?」
キサはふわりと体を外して、ヒナタにバトンタッチ。
沈黙を続ける二人の様子を、みんなは見守った。
「……信じてって、言ったの覚えてる?」
「………………」
「オレが絶対に何とかしてやるって言ったの」
「………………」
「そ。忘れてないんならいい」
みんなは、今の会話のどこをどう取ってヒナタはわかったのかと疑問に思った。
「あんたはただ、信じて待っておきなよ」
「………………」
「あんたには下僕が一番似合うけど……でも」
「………………」
ヒナタが、葵の頭にそっと触れる。
「頑張ったから、ちょっと休憩。……お城の上で待っておきなよ。休みながらさ」
「………………」
「絶対、オレが助ける。……信じて待ってて」
「………………」
頭の上に手を置いているヒナタにしか、きっとわからなかっただろう。葵は、本当に少しだけ。目視では確認できないほど微かに、縦に首を振った。返事をもらえると思っていなかったのか、ヒナタはビックリしていたけれど。
「……よくできました」
満足げに笑ったあと、葵の頭をくしゃくしゃにした。
「それじゃあ皆さん。私も新歓のお手伝いができなくてすみません」
レンも、しばらくは葵についていることになったので、学校も休んでしまうことを事前に伝えていた。
「大丈夫だ。葵のこと頼んだぞ」
レンに、アキラがそう返す。
『見送りは生徒会室まで』
はじめに葵はそう言っていた。
「それじゃ、みんな!」
レンが扉を開け、外で待っている。葵は鞄を持ち、生徒会室の扉へと足を進める。
そして、ゆっくりと立ち止まって振り返った。
「あっちゃん! 待ってるから!」
キサに続いてみんながそう声を掛けてくれる。
葵は最高の、自分の思いっきりの笑顔を返した。
「ありがとうみんな! バイバイ!」
そうして葵は、みんなが……家族がいた生徒会室から、手を振りながら去って行きました。



