ヒナタは、じっと葵を見つめた。
「……ひなたくん」
「ん」
「ひ、……ひなた。くん」
「うん。もっと呼んで」
目の前に来たヒナタは、葵の肩に頭を置いた。
「ひなたくん……?」
「ん?」
「どうしたの?」
「……ちょっと、実感中」
「実感?」
「……あおい」
「……!」
「あおい。……あおいっ」
ヒナタは葵の背中に、ゆっくりと。遠慮がちに腕を回す。
「ひなっ」
「呼びたかった。ずっと。……ずっと」
ぐっと、力を入れて葵を抱き締めてくる。
「……うん。ごめんなさい。ひなたくん」
「……何が? オレがあんたに酷いことしたんでしょ?」
「ううん。……ひなたくんが、そんなことするわけないじゃん」
「……でも、ネクタイぶん投げられた」
「いや、うん。それは……だからごめんって」
「みんなのは丁寧に扱ってたのに」
「はい。すみません。反省してます。……どうせ下僕の分際でとか言うんでしょ? わかって――」
「超嫉妬した」
抱き締めてくる腕にまた力が入る。だから、聞き間違いかと思った。
「え? ……え?」
「何みんなといい雰囲気になってんの。下僕のくせにっ」
「(あー、やっぱり言われるんですね……)」
よくわからなかったけど、キサから彼の暴走を止めるように言付かっているので、任務を達成するために彼の話を聞いてあげることに。
「アキくんと何話したの?」
「え? さっき?」
「違う。月曜日も」
だんだん腕の力が強くなっているので、早く話さないと本気で息絶えてしまうと思った。
「アキラくんとはシントの話とか、願い叶えてくれてありがとうって。みんなを代表して言ってくれたよ」
「他」
「さっきは、甘いもの控えなさいーとか、ご家族の皆さんにもよろしくって言ったよ?」
「次」
「(えー。まさか全員ですか……? ちょっと、……いや。言いたくない方がいるんですけど……)」
そんなことを思っていたら、ヒナタが縋るように抱きついてきたので、葵は腹を括ることにした。
「カナデくんは、実家に帰るように。ユズちゃんも変われてよかったねって。エロ本はやめなさいって言ったよ?」
「他」
「……ねえヒナタくん、聞こえてたでしょ? なんで聞くかな……」
「話して。声聞きたい」
「あと、その間に会話考えるから」と。葵はため息をついて、話してあげることにした。本当に、嫌だけど。
「……最後に、仕事頑張ってねって言ったら、ほっぺにちゅーされた」
葵がそう言うと、ヒナタの頭が肩から上がってくる。
「……何、下僕のくせにされてんの」
「面目ない。カナデくんにも、あとで口をよく拭いておくように――」
と言いかけたところで、頬に何かが触れた。ちゅっと音を立てて離れた。
「はい次」
「え? ええ??」
……あれ? 気のせい??



