すべてはあの花のために⑦


 ヒナタは、じっと葵を見つめた。


「……ひなたくん」

「ん」

「ひ、……ひなた。くん」

「うん。もっと呼んで」


 目の前に来たヒナタは、葵の肩に頭を置いた。


「ひなたくん……?」

「ん?」

「どうしたの?」

「……ちょっと、実感中」

「実感?」

「……あおい」

「……!」

「あおい。……あおいっ」


 ヒナタは葵の背中に、ゆっくりと。遠慮がちに腕を回す。


「ひなっ」

「呼びたかった。ずっと。……ずっと」


 ぐっと、力を入れて葵を抱き締めてくる。


「……うん。ごめんなさい。ひなたくん」

「……何が? オレがあんたに酷いことしたんでしょ?」

「ううん。……ひなたくんが、そんなことするわけないじゃん」

「……でも、ネクタイぶん投げられた」

「いや、うん。それは……だからごめんって」

「みんなのは丁寧に扱ってたのに」

「はい。すみません。反省してます。……どうせ下僕の分際でとか言うんでしょ? わかって――」

「超嫉妬した」


 抱き締めてくる腕にまた力が入る。だから、聞き間違いかと思った。


「え? ……え?」

「何みんなといい雰囲気になってんの。下僕のくせにっ」

「(あー、やっぱり言われるんですね……)」


 よくわからなかったけど、キサから彼の暴走を止めるように言付かっているので、任務を達成するために彼の話を聞いてあげることに。


「アキくんと何話したの?」

「え? さっき?」

「違う。月曜日も」


 だんだん腕の力が強くなっているので、早く話さないと本気で息絶えてしまうと思った。


「アキラくんとはシントの話とか、願い叶えてくれてありがとうって。みんなを代表して言ってくれたよ」

「他」

「さっきは、甘いもの控えなさいーとか、ご家族の皆さんにもよろしくって言ったよ?」

「次」

「(えー。まさか全員ですか……? ちょっと、……いや。言いたくない方がいるんですけど……)」


 そんなことを思っていたら、ヒナタが縋るように抱きついてきたので、葵は腹を括ることにした。


「カナデくんは、実家に帰るように。ユズちゃんも変われてよかったねって。エロ本はやめなさいって言ったよ?」

「他」

「……ねえヒナタくん、聞こえてたでしょ? なんで聞くかな……」

「話して。声聞きたい」


「あと、その間に会話考えるから」と。葵はため息をついて、話してあげることにした。本当に、嫌だけど。


「……最後に、仕事頑張ってねって言ったら、ほっぺにちゅーされた」


 葵がそう言うと、ヒナタの頭が肩から上がってくる。


「……何、下僕のくせにされてんの」

「面目ない。カナデくんにも、あとで口をよく拭いておくように――」


 と言いかけたところで、頬に何かが触れた。ちゅっと音を立てて離れた。


「はい次」

「え? ええ??」


 ……あれ? 気のせい??