……でも、一向にそれらしいことは起こらない。
「……何? 期待したのかよ」
「……!! ち、ちがっ……」
「しょうがないから、帰ってきたら一発やらせろ」
「なあ……!?!?」
「それまでに、ちゃんとお前のことわかってやっからさ。最初っから最後まで。……それでもオレは、お前のこと嫌わねえ。絶対だ」
「ちかくん……」
「お前が安心できるまでずっと言ってやる。オレはお前が好き。絶対に嫌うことなんてねえ。……だから安心しろ? な?」
「……うん。ありがと」
チカゼは、葵の頭をぐしゃぐしゃにしたあと、お得意のにかっとした笑顔を見せてくれた。
「……あっちゃん」
キサは、葵の唇をウェットティッシュで拭いたあと、リップと口紅を塗ってくれた。
「これ、あっちゃんに貸してあげる」
「え?」
キサは口紅を葵の手に握らせ、その上からぎゅっと握る。
「だから、早く帰ってきてね? 流行が終わっちゃうまでに!」
「うわ~。これ、一番責任重大なやつ~」
「信じて待ってる。……絶対に、あたしたちが生徒会のうちにあっちゃんは帰ってくるって」
「キサちゃん……。……うんっ。そうだね!」
「でも、信じてるっていうのは違う。確信がある! 絶対に帰ってこれるよ! だからあっちゃんも信じて!」
「……うん。もちろんだよ?」
むぎゅーっと、お互いが抱き締め合って、とても離れがたかった。そう思っていると、耳元でキサが小さく囁く。
「……あっちゃん。そのまま聞いて?」
「……?」
「最後でいいから、あいつと話してあげて欲しいの」
「…………」
「あっちゃんと話したくて、若干最近キャラ暴走してんのよ。止めてあげられるのはあっちゃんしかいないんだ」
「え。……それ、彼が勝手にやってるんじゃ」
「あっちゃんと話すためならどんな犠牲を払ってでも話す気だったから、……止めるのが大変だったんだ」
「おう……。それは申し訳ねえ……」
「主に犠牲者はチカです、どうぞ」
「何となくわかってました、どうぞ」
「だから、話してあげて? つらそうなの。泣きそうなの。苦しそうなの」
「…………」
「あっちゃんのこと大切なんだよ。何があったか知らないけど、あっちゃんのことを、あいつは絶対に苦しめたりしないよ」
「(……げ、現に苦しめられた経験がある場合は、どうしたら……)」
キサは、また力を強めて、葵を抱き締める。
「あっちゃんあいつのこと嫌い?」
「…………」
「だったら思い切り「嫌い!」って言って、ぶっ叩いてもいいよ?」
「さ、流石にそこまでは(……嫌いとは言っちゃったけど)」
「というわけで、今からあいつ以外を生徒会室から連れ出します」
「へ?」
「あっちゃんはあいつらが入ってこないように急いで鍵を閉めてください」
「はい? え? ちょっと、キサちゃん……?」
「計画者はあたしと茜と秋蘭でお送りします」
「いやいや。わたしも大急ぎで出るから」
「じゃああたしと茜と秋蘭が頑張って扉を塞ぎます」
「えー。……い、いやだ」
「……最後にさ、あっちゃんがお休みする前に、あいつにもいい思い出作られてやってよ」
「……いい思い出なんて……」
「自分だけいい思い出って作れないよ? 相手がいるから思い出なんだ。お互いがいい思い出だと思ってるから、いい思い出になるんだよ」
「………………」



